現代の急速に変化するビジネス環境において、キャリアの持続可能性がますます重要視されています。サステナブルキャリアとは、単なる一時的な成功を追求するのではなく、長期的な視点でキャリアを考えることを意味します。
この記事では、その定義や企業においてこの概念を取り入れることの意義について解説していきます。

サステナブルキャリアの定義
サステナブルキャリアとは、個人が長期的に持続可能な形でキャリアを築き、仕事を通じて自らの幸福と社会的貢献を両立させる考え方です。「持続可能なキャリア」とも呼ばれています。
長期的に働いていく中では、昇進、異動、育児・介護、離職など様々な変化が生じます。
また、職場だけでなく、家庭や友人関係など異なる空間での関わり合いも不可避です。
そうした、複数の場面や空間で、どのようなキャリアを欲し、どうありたいか考えていくこと。
それがキャリアの持続性につながるという考えです。
サステナブルキャリアが重要視されている背景
法政大学大学院教授の石山恒貴氏は、サステナブルキャリアが重要視されている背景には、4 世代のキャリア理論の潮流の移り変わりがあると論じています。
以下に、それぞれの世代の概要とイメージ図についてみていきましょう。

このように、個人を重視した結果、組織との乖離が起き、それを是正するための流れが生じてきていると言えます。
キャリア自律やフレキシブルワークなど、個人のニーズや思いを反映するキーワードが増える現在。
しかし、進む技術革新やグローバル化など、企業環境もまた変化を強いられています。
こうした企業と個人のニーズをすり合わせていく必要性が、サステナブルキャリアを後押している要因となっているでしょう。
サステナブルキャリアの次元と結果指標
サステナブルキャリアの次元と、それを評価する結果指標としては、それぞれ3つずつ挙げられます。
サステナブルキャリアの3次元
1、人間
2、文脈
3、時間
次元とは、空間や性質を定義するための基準です。
この「人間」の次元には、行為主体性と意味が含まれます。
主体性や裁量をもって、人生の目的を明らかにすることが重要です。
「文脈」には、職場、組織、職業、制度、国、私生活などが含まれます。
こうした異なる文脈を経験することで、キャリアの意思決定を行います。
また、人は時間経過の中で、成長や変化を感じ、自分のあり方を学んでいきます。それが「時間」の次元です。
サステナブルキャリアの3つの結果指標
1、健康
2、幸福
3、成果
上述したサステナブルキャリアの3つの次元を活用できることが、この結果指標につながります。
より具体的には、健康とは身体的かつ精神的な健康をさします。
また、主観的なキャリア成功と満足を得られることで幸福を感じ、現在の職務での成果と将来的なエンプロイアビリティが成果につながっています。
このように、サステナブルキャリアの3つの次元と結果指標は、組織と個人を適合していくための仕組みとなっています。
サステナブルキャリアの実践的意義
ここでは、企業がサステナブルキャリアを取り入れる実践的意義について解説していきます。
個人の行為主体性と意味の深化
サステナブルキャリアを取り入れることで、個人の行為主体性と意味を認識し、深めていくことが可能になります。
従来の日本は、企業の家父長制的側面を一定程度受容し、それを通じた能力開発に重きを置いていました。ここでいう家父長制的側面とは、会社が労働環境を整備し、労働者はそれに従うという概念です。
上述した第2世代の考え方が該当します。
企業が家父長制的な考え方でタレントマネジメントや越境学習、リスキリングなどを実践すると、従来の能力開発と変わらなくなる可能性があります。
企業がこれらを実施する際には、個人の行為主体性と意味を深める視点が欠かせません。
こうした新しい能力開発を有効にしていくためには、サステナブルキャリアの実践が欠かせないと言えます。
能力開発の再構築
上述したように、サステナブルキャリアを実践していくことで、能力開発やキャリア形成を新たに構築していくことが可能となります。
今注目されているリスキリングに関しても、必要なキャリアが明確になることでより進めやすくなるでしょう。
また、従来、日本企業ではOJTを能力開発の柱の一つと考えてきました。
スキルやキャリアを明確化することで、それをOJTに取り入れていくことも可能となります。
まとめ
サステナブルキャリアが注目される背景には、技術革新やグローバル化、社会的価値観の変化、働き方の多様化、政策や教育機関の支援など、多岐にわたる要因が絡み合っています。
これらの要因が相互に影響し合いながら、個人が持続可能な形でキャリアを築くことの重要性が高まっています。
サステナブルキャリアは、個人の幸福と社会的成功を両立させる新しいキャリアモデルとして、今後ますます注目されていくでしょう。
参考文献
石山 恒貴「サステナブルキャリアに基づく能力開発とキャリア形成の個人視点からの再検討」