記事

スキルマップの作り方 | 作成例や評価基準、メリットについて解説

スキルマップ(スキルマトリックス)とは、個人や組織全体のスキルを可視化し、分析するためのツールの一つです。
このスキルマップは、会社や組織の目標達成に向け、人材のポテンシャルを引き出していくために役立ちます。しかし、ただスキルマップを導入するだけでは十分な効果を得ることはできません。成功のためには、スキルマップの目的を正しく理解し、適切に設計・運用していくことが鍵となります。

この記事では、スキルマップの具体的な設計方法や目的、メリット、気をつけたいデメリットやその対処法に至るまで詳細に解説しています。

フォスターリンク株式会社

本サイトはフォスターリンク株式会社(https://www.fosterlink.co.jp/)が運営しています。
フォスターリンク株式会社は、組織・人材マネジメントコンサルティング、クラウド型システム「HR-Platform」、各種サーベイ、給与計算代行など、企業の組織・人事に関わる様々な課題へのソリューションを提供しています。

フォスターリンク株式会社をフォローする

スキルマップ(スキルマトリックス)とは

スキルマップ(スキルマトリックス)は、会社や組織のメンバーやチームが持っているスキルを視覚的に表現したツールです。力量表、力量管理表、技能マップなどとも呼ばれます。
スキルマップの要素としては、下記の2つが挙げられます。

  • スキル: 個人が持つ特定の能力、知識などを指します。詳細については後述します。
  • 熟練度:各スキルに対する個人の熟練度は通常、スケールで評価されます。例えば、レベル1〜4のスケールを基準として、レベル1は「一人では行えないが補佐としては行える」、5は「行動基準を熟知しており、人を指導できる」などといった習熟度を設定して評価することができます。

スキルとは

スキルマップを作成する際に考慮する「スキル」とは、組織の業務遂行に必要な知識、能力、経験などを指します。このスキルにはいくつかの体系的な考え方がありますが、代表例の一つとして「カッツ理論(カッツモデル)」が挙げられます。これは、ビジネススキルに関する理論を提唱した教育者であるロバート・カッツ氏が、1955年に提唱した理論です。
この理論では、以下の3つのビジネススキルを定義しています。

1、テクニカルスキル

これは特定の分野や業務に関する知識と専門技術を指します。
例えば、エンジニアの専門知識、特定のソフトウェアの使い方、財務分析能力などが含まれます。これらのスキルは特に、一般社員や新入社員にとって重要とされています。

2、ヒューマンスキル

これは他人と友好的に働き、柔軟に立ち回る能力を指します。
これには、チームのリーダーシップ、衝突の解決、モチベーション管理、そして効果的な人間関係の構築能力が含まれます。これらのスキルは、全ての階層で重要となります。

3、コンセプチュアルスキル

これは組織全体を理解、複雑な状況を把握し、戦略的な視点から物事を考える能力を指します。
これらのスキルは、特に組織のトップレベルで働く役員層にとって重要とされています。

スキルマップを作成する際には、こうした理論やメソッドに基づいてスキルを体系化して客観的に把握していくことになります。

ISO9001を取得する際もスキルマップの作成が有効

ISO 9001の取得を検討している企業にとっても、スキルマップは有益です。
ISO 9001とは、国際標準化機構(ISO)により制定された品質管理システムのための国際規格です。

この規格では、認証を得るための要求事項の一つに「製品品質に影響がある仕事に従事する人の力量を把握し、必要な教育・訓練を実施すること」があります。この力量とは、業務に必要な技能、知識、資格、経験などの能力を指します。

このISO 9001で求められる力量の把握にも、スキルマップを役立てることができます。

スキルマップ導入の目的とメリット

リソースの効率的な割り当てを行う
スキルマップにより、各従業員が持つスキルとそのレベルを把握することができます。
これは、新しいプロジェクトのチーム編成時や業務をスキルベースで割り振る際に役立ちます。特にプロジェクトベースで業務が進んでいくITやコンサル業界、作業が工程ごとに分かれている製造業界や建設業界では有効な人材マネジメント手法の一つと言えます。

実際に、スキルマップを導入している企業の代表的な企業としてはトヨタ自動車が挙げられます。
トヨタ自動車の生産体制は、トヨタ生産方式とも呼ばれ多くの製造業のお手本となっています。
その生産方式を支えているのが”多能工”の存在です。多能工とは、製造ラインの作業員が複数の作業スキルを持ち、様々な作業領域で働くことができるというものです。

トヨタ自動車の多能工では、作業員がどのような作業領域(例: 組み立て、検査、修理など)のスキルを持っているのかをマッピングし、それぞれのスキルをレベルごとに表示します。
これにより、どの従業員がどのレベルまでスキルを習得しているのかを一目でわかるようにしておきます。そして、実際に生産ラインの変動や突発的な事象が発生した場合、スキルマップをもとに迅速に人員を再配置します。

このように、スキルマップを活用することによって、必要な時に必要な人材を必要なだけ供給していける効率的な配置を行うことが可能となります。

能力開発や人材開発の方向性を示す

スキルマップは従業員自身にとっても有益なツールです。
自分のスキルを視覚的に理解し、さらに向上させるべきスキルを明確にすることで、自己の能力開発の方向性を自覚し、キャリアパスを自ら計画することができます。

また、このことは会社や組織にとってもメリットとなります。
スキルマップを作成することで、どのスキルを今後強化すべきかという点が明確になります。そのため、人材開発の内容をこの課題に基づいて組み立て、効果的に行うことが可能となります。

スキルマップ導入の際のデメリットと対処法

上述したような利点があるスキルマップですが、導入する際にはデメリットもあるため注意が必要です。よく陥りやすいポイントに焦点を当てて、デメリットとそれに対する具体的な対処法について解説します。

スキルの設計に時間を要する

スキルマップを導入するには、データ収集やスキルのリストアップと整理など、様々な工程が必要となります。また、具体性を意識するあまりスキルをあまりに細かく分類してしまうという事例も見られます。

これに対しては、人事だけで設定を進めるのではなく、現場の管理者や現職者なども巻き込みながら設定を行うことが重要です。また、設計のノウハウを有した外部の専門家に力を借りるというのも有効な手段となります。

また、スキルを細かすぎるカテゴリーに分けると管理が難しくなり、使用時に混乱を招く可能性があります。他のカテゴリーとの重複が発生するリスクもあるので、常識的な範囲でのカテゴライズとなるよう意識して作成するようにしましょう。

評価基準と混同しやすい

スキルマップを導入した際のデメリットの一つが、評価基準と混同しやすいためこのスキルマップのみで評価してしまうということが挙げられます。

あくまでもスキルマップは基本的には上述した通り、会社や組織のメンバーやチームが現時点で持っているスキルを視覚的に表現したツールです。
評価制度と連動させている企業もありますが、そうではない場合や、スキルマップの一部を踏襲しつつ、他の評価基準を置いているケースも多く見られます。

スキルマップだけで評価せず、自社や組織の評価基準をもとに適切に評価を行うようにしましょう。

スキルマップが形骸化してしまう

スキルマップの導入は、一時的なプロジェクトではなく、持続的に運用・更新していくものです。
個人の技術や能力、組織のニーズは頻繁に変化します。定期的な更新を行わないと、スキルマップ自体が形骸化してしまう恐れがあります。
スキルマップを適切に更新し管理を行うことで、形骸化を防ぐと共に、その長期的な取り組みの方針や継続性を保つための動機付けができます。

具体的には、①定期的な修正、②組織のニーズが変化したタイミングでの修正を図ることが必要です。
①定期的な修正の頻度としては、一般的には1ヶ月程度が望ましいとされています。ただ、運用負荷を鑑みて、人事評価のタイミングで同時に行ったり、数ヶ月単位でのプロジェクトが終了した時点で行ったりと、企業や組織のニーズに応じてその頻度は検討するようにしましょう。

また、②組織のニーズが変化したタイミングとは、多くの場合経営戦略やそれに基づく人事戦略が変更された場合を指します。そのタイミングでは、人材に求める要件も変わる可能性があることから、見直しを図る必要が生じます。

スキルマップの作成方法

人材のスキルマップを作成する方法は、会社や組織によって異なりますが、ここでは一般的なスキルマップの作成方法について説明します。
以下を参考に、自社のニーズや目的に合わせてスキルマップを作成していきましょう。

作成にあたり必要な共通事項

各ステップを説明する前に、まずはどういったスキルマップであっても共通して必要となる事項について解説します。スキルマップ作成には以下の3つが必要となります。

(1)スキル一覧:組織内で必要とされる全てのスキルの一覧
(2)スキルレベル:各スキルのレベル設定
(3)評価者:スキルを評価する人
(1)スキル一覧:組織内で必要とされる全てのスキルの一覧

収集したデータや情報をもとに、リストアップされた必要とされるスキルをすぐに把握できるように一覧形式にしておきます。また、各スキルや能力に関する端的な説明も加えておきましょう。そうすることで、スキルの範囲や重要性を明確にするために役立てることができる他、スキルマップの更新をする場合にも、更新前後の状況を把握することが容易になります。

(2)スキルレベル:各スキルのレベル設定

各従業員の現在のスキルを評価する際にもギャップを測定する際にも必要となるのが、各スキルのレベル設定です。初級、中級、上級や数値化した形でのレベル設定など、視覚的にもわかりやすく分類しやすい形で設定しておきましょう。
スキルレベルは個人の判断によって変わる可能性があり、公平性を担保しずらい項目です。なるべく客観的で公正な判断が下せるように、スキルレベルについても、そのレベルがどういった状態を指しているのかについても必ず決め、言語化しておくようにしましょう。

(3)評価者:スキルを評価する人

スキルマップを設計・運用する際には、スキルを評価する人の設計も必要不可欠です。上司や同僚、自己評価など、どのタイミングでどの人が評価を行うのかについても忘れずに設定しておくようにしておきましょう。

スキルマップ作成のフロー

ここからは、スキルマップを作成する際の一般的なフローをステップごとに詳しく解説していきます。

STEP1.目的の明確化

まずは、スキルマップの主要な目的を特定します。目的は、人材の配置、育成、キャリアパスの設計など、さまざまなものになる可能性があります。
例えば、メンバー層への人材の育成が目的であれば、スキル項目についてもマネジメント能力や顧客折衝力など長期的な観点でメンバー層の成長目標となるようなスキルが適しますが、プロジェクトへの配置の目的であれば、現時点での保有スキルを詳細に知る必要が出てくる可能性もあります。

また、目的に合わせて、スキルマップの作成プロセスに関与する主要なステークホルダーを選定しておきましょう。これには、現職者やその上司、状況によっては経営層へのヒアリングが必要となるケースもあります。効率的に進められるように、スキルマップを作成するにあたり、インタビュー形式を取るのか、データに書き込んでもらう形式にするのかなど情報収集の方向性や具体的な方法についても決めておくと良いでしょう。

STEP2.情報収集とスキルのリストアップ

前のステップで決定された情報収集の対象者と方法をもとに、業務や役割に必要なスキルを特定するための情報収集を行います。基本的には前のステップで決めた方法に従い行っていきますが、状況によっては、既存のマニュアルや自社のベストプラクティスなどから必要なスキルを収集するなど柔軟に対応します。

ここで注意すべきことは、あくまでも現時点で必要なスキルに限定せず、目的に応じた理想的な形となるように設計していくことです。例えば、上述したメンバー層への人材育成を目的とした例で説明すると、現時点ではマネジメント能力や顧客折衝力を有しているメンバーがいなかったとしても、人材育成の目的上そのスキルが必要であれば当該業務に必要なスキルの中に加えていきます。
そして収集した情報やデータをもとに、関連するすべてのスキルをリストアップします。

STEP3.スキルの分類

必要なスキルをリストアップしたら、その関連性や種類に基づいて当該スキルをカテゴリごとに分けます。
上述したようなカッツ理論の3つのビジネススキルも代表的な分類方法ですが、自社や自組織の目的や機能なども合わせて運用しやすい形で分類しましょう。

STEP4.評価基準の設定

スキルのカテゴライズが完了したら、そのスキルの習熟度を示すための評価基準やレベルを定義します。
ここでは、これができたら何のレベルなど具体的に基準を設定し、後の運用で主観での判断の余地を極力残さないように設定することを意識してください。
また、合わせてその基準に応じた評価を行う評価者や評価を行う方法についても設定しておきましょう。評価方法についても、自己評価、上司や同僚からの評価、面談、テストなど様々な方法が考えられます。

STEP5.スキルの評価

上のステップまで完了したら、次に現従業員のスキルレベルの評価に移ります。STEP4.で決定した評価者が、設定された評価方法に基づいて行います。

STEP6.スキルマップとギャップの可視化

STEP5.までの情報を元に、視覚的に把握しやすいスキルマップを作成します。
今後の人材開発のために自社や組織の理想像とのギャップを知りたい場合は、合わせて現従業員の保有スキル情報と理想像とのギャップも可視化できるようにしておきましょう。こうすることで、スキルの過不足の状況が把握でき、人材開発の方向性や手段も具体的に検討しやすくなります。

ここまでが、スキルマップの作成に関する基本的なステップです。
作成後は、スキルマップの存在と利用方法を従業員に伝え、自らのスキルの状況把握やスキルアップのための意識付けを行っていきましょう。

そして、周囲の環境変化や組織のニーズの変動に応じて、スキルマップを定期的に見直し、必要に応じて更新しながら運用を行っていきます。

スキルマップ作成に活用できるテンプレート

スキルマップ作成のフォーマットは、縦軸にスキルの種類、横軸にスキルレベルを配置し、各セルに従業員のスキルレベルをマークする形が一般的です。サンプルとしては、厚生労働省が作成している「職業能力評価シート」が参考になります。

Excelシートでダウンロードでき、業種ごとに細かく例が記載されているので、自社用にカスタマイズしたりスキルマップ作成の参考にすることができます。

まとめ

今回は、スキルマップの基本的な考え方や具体的な作成方法、効果的な活用ポイントなどについて詳しく解説しました。

スキルマップの活用は、適所適材を実現し、個人のモチベーションや成長を促進するための重要なツールの一つです。ただし、適切に活用するには、ビジネスの戦略やニーズを見据えた目的を明確化することや、定期的な更新を行っていくことが不可欠です。スキルマップを活用して、より効果的な組織運営と人材開発を実現しましょう。