記事

人事制度とは?コンサルタントが解説する制度の目的や設計方法

人事制度とは、組織目標を持続的に達成していくために、経営者と従業員双方のニーズが重なりうる領域を見出しやすくする暫定的な枠組みです。

組織・人材マネジメントを機能させるためには経営者側のニーズ(方向性と望ましい思考・行動様式の浸透、理想的な人材配置の実現、人材の動機づけ、マネジメントの効率性向上)と従業員側のニーズ(金銭的・非金銭的充実、仕事そのもののやりがいや楽しさ)をマッチングさせることが重要であり、人事制度はその要として機能します。 人事制度というと広義では組織における人事にまつわる全ての制度や施策を指しますが、一般的にはそのうちの等級制度・評価制度・報酬制度の3つの制度を指す狭義の意味で使われることが多く、また、それら3つを合わせて基幹人事制度と呼ぶこともあります。

本記事ではその基幹人事制度とも呼ばれる狭義の人事制度について理解するための手掛かりとなるよう、組織・人材マネジメントコンサルタントの視点から、人事制度とは何か、その目的、影響を与える要因、設計・移行・定着化の方法を解説します。

組織・人事コンサルタント

一橋大学商学部卒業後、㈱ユーグレナ入社。
直販事業立ち上げの中で、主にフルフィルメント業務全般の立ち上げと整備に従事。
同社IPO後に起業を経て、2015年フォスターリンク㈱入社。
国内の中堅・中小企業を中心に、組織設計・要員計画・人事制度設計/導入等のコンサルティングサービスや組織開発・人材開発の支援を行っている。

廣松 啓太をフォローする

人事制度とは

上述したように、人事制度とは、組織目標を持続的に達成していくために、経営者と従業員双方のニーズが重なりうる領域を見出しやすくする暫定的な枠組みです。

「組織目標を持続的に達成していくため」とは、人事制度の目的を示しています。
常に目的を意識するという点で定義に含めるには問題ないですが、人事制度について理解を深めるという点においては大目的過ぎて用をなすには不十分なので、次の「人事制度の目的」の章では中目的までかみ砕いて説明します。

「暫定的な枠組み」とは、人事制度の構造の性質を示しています。
この枠組みは永久的なものではなく、組織目標、それを達成するための戦略の変化、現実への実効性に応じて変わるものです。

「経営者と従業員双方のニーズが重なりうる領域を見出しやすくする」とは、人事制度の目的を達成するための基本的なアプローチを示しています。
組織・人材マネジメントを機能させるためには、経営者側のニーズと従業員側のニーズがマッチングしていることが重要です。人事制度は、経営者が従業員に求める期待値とそれに対する従業員の実績値に応じた処遇決定方法を、等級制度・評価制度・報酬制度を連動させることを通じて明示し、双方のニーズのマッチングを図ろうとするものです。

以下、それぞれの制度の概要を説明します。

等級制度

等級制度とは、経営者が従業員に求める期待値を能力・職務・役割等の基準でレベル分けして定義・明示し、その中に従業員を位置づける仕組です。

能力・職務・役割のいずれを基準に等級の定義を行うのかによって人材マネジメントの方向性自体が定まり(逆に言うと、企業にとって望ましい人材マネジメントに基づいて能力・職務・役割の中の何で等級定義を行うかを決める必要があります)、一般的には評価制度・報酬制度の構築や人材フローマネジメント(採用・配置・人材開発・代謝)運用もこの等級制度を基盤として行われるため、人事制度のみならず人材マネジメント全体の根幹を担う制度と言えます。

また、等級制度の中のサブ制度として定められる昇格・降格制度は、評価制度を通じて測られる従業員の実績値も判断基準として利用しながら、従業員の処遇(昇降格というレベルそのものとそれに伴う仕事内容や金銭的報酬)決定方法として機能します。

【関連記事】等級制度の詳しい内容については、こちらの記事をご確認ください。

評価制度

評価制度とは、等級制度やジョブディスクリプションによって明示された経営者が従業員に求める期待値に対する、従業員のある一定期間における実績値を測る仕組です。
等級制度・報酬制度と日々の現場のマネジメント行動と連動することで、組織の方針の浸透・動機付け・人材開発・報酬決定を実現することが主な目的とされています。

評価制度が等級制度・報酬制度と大きく性格が異なるのが、その運用に現場が深く関与する必要があるという点です。評価制度の趣旨の理解や制度運用に対する現場のWill・Skillが十分でない場合、狙い通りに制度の運用が出来ず、人材マネジメント全体の成否に大きな影響を与えてしまいます。
評価制度は運用が9割です。制度そのものの設計だけでなく、運用開始前の準備や運用状況に応じた継続的な改善活動を行っていくことの方がより重要だと言えます。精緻な設計よりも、シンプルで運用しやすい設計の方が目的に適います。

【関連記事】評価制度の詳しい内容については、こちらの記事をご確認ください。

報酬制度

報酬制度とは、経営者が従業員に求める期待値に対する従業員のある一定期間における実績値に応じて、主に給与・手当・賞与・退職金等の金銭的報酬面での処遇を定める仕組です。

人事制度の枠の中では主に金銭的報酬を対象に設計・運用を行いますが、人材マネジメント全体の観点からは非金銭的報酬(例えば、仕事のやりがい・スキルやキャリア開発・職場環境・福利厚生・ワークライフバランス等々)も含めて報酬設計を検討することがより重要です。

【関連記事】報酬制度の詳しい内容については、こちらの記事をご確認ください。

人事制度の目的

他の全ての組織・人材マネジメントの施策と同様、人事制度もその究極的な目的は組織目標を持続的に達成することですが、上述した通り、この大目的のままでは定義としては十分でも人事制度をより理解するためには不十分なため、本章では中目的までかみ砕いて説明します。

まず組織全体の活動として考えた時に、組織目標を持続的に達成するためには、その目標レベルにもよりますが、以下の条件が揃っていることが基本となります。

  1. 組織目標を持続的に達成するための戦略
  2. 戦略を実現することに焦点を置いて設計された組織
  3. 組織目標と戦略の方針を理解し、それを実現するスキルを持ち、その実現に動機付けられている従業員

上記の2と3の条件は組織・人材マネジメントに関する条件であり、ここから経営者の組織・人材マネジメント分野のニーズとして以下等が導かれます。

  • 戦略を実行するのに適した組織構造やオペレーティングシステムの設計と運用
  • 理想的な人材配置(要員計画)の実現
  • 職場環境の向上
  • 組織の方針の浸透
  • 動機付け
  • マネジメントの効率向上

これらのニーズのうち、人事制度が直接的に貢献出来うるものが人事制度の中目的となりえます。
すなわち:

  • 理想的な人材配置の実現
  • 組織の方針の浸透
  • 動機付け
  • マネジメントの効率向上

本稿では以上の4つを多くの組織で共通して発生する代表的な中目的として説明します(実際には各組織の置かれる個別具体的な状況に応じて上記の4つ以外の目的を設定することもあります。)。

人事制度の中目的①:理想的な人材配置の実現

人事制度の中目的になりえるもののひとつとして、理想的な人材配置の実現が挙げられます。

各等級に求められる期待値を明示し、評価制度で実績値を測り、それに基づいて昇格・降格を行うことで、各等級にふさわしい人材がそろうことになります。また、評価データを用いることで、一定の透明性・客観性を担保した配置を行うことが出来るようにもなります。

一方で、人事制度を運用するだけでは理想的な人材配置を行う基礎にはなっても、それだけで十分とは言えないという点には注意が必要です。人事制度上では等級別の粒度まででしか配置について考慮しませんが、理想的な人材配置のためにはポジション別の粒度で配置を考える必要があります。また、ポジション別の粒度で配置を検討する際に必要なデータについても、必ずしも評価制度で測る実績値だけでは十分とは言えません。理想的な人材配置を行う具体的な手法についてはこちら(要リンク挿入)をご覧ください。

人事制度の中目的②:組織の方針の浸透

人事制度の中目的になりえるものの2つ目として挙げるのは、組織の方針の浸透です。

等級制度で各等級に求められる期待値を、評価制度で何を対象にどう実績値として測るかを明示することによって、組織が目指すものや従業員に求める思考・行動様式の浸透を図ります。

方針の浸透は組織・人材マネジメント上のリスク低減の効果ももたらします。
従業員の実績値に応じてどのように処遇を決定するのかという方針が浸透していなかった場合、従業員が大きな実績を上げたと思っていても、そもそもそれが企業の求めているものではなかったり、実績に対する報酬を過大に想定してしまったり等と、組織-従業員間で認識のミスマッチが発生してしまうことで、モチベーション低下・離職・生産性低下等に繋がることが想定されます。また、特に降格・降給などのネガティブな処遇変更が必要以上に難しくなったり、最悪の場合、労働法規違反を犯してしまう可能性もあります。労働法規周りのリスクについては、人事制度だけではなく就業規則等の規則類の整備と合わせて対応していく必要があります。

人事制度の中目的③:動機付け

3つ目は従業員の動機付けです。

実績値に応じた処遇を通じて従業員の意欲を引き出します。
処遇には金銭的報酬だけでなく、仕事そのもののやりがいや楽しさ、非金銭的な充実も含まれます。

ただし、人事制度は従業員に自社の戦略の実行・実現に望ましい考え方や行動をしてもらう確率を高めるための動機付けをする重要な基盤ではありますが、それ単体だけでは十分ではありません。その他の組織・人材マネジメントの施策や現場のマネジメント行動と合わせた多層的・多角的・継続的な働きかけを通じてようやく実現しうるものだということを認識しておく必要があります。

人事制度の中目的④:マネジメントの効率向上

4つ目はマネジメントの効率向上です。

組織目標を持続的に達成するためにも組織・人材マネジメントを効率よく実行する必要があり、人事制度はそれを実現するためのものです。

組織から従業員への働きかけ方は大きく分けて以下の2つがあります。

  • 人による働きかけ
  • 仕組による働きかけ

人による働きかけは、個人間のコミュニケーションを通じた働きかけです。話をする、話を聞く、褒める、注意をするといったコミュニケーションを通じて働きかけを行います。
一方で仕組による働きかけは、人事制度のような仕組の運用を通じた働きかけです。評価の結果を昇降給に反映させるといった働きかけを行います。

従業員への働きかけは、必ず仕組による働きかけを行わなくてはならないということではなく、例えばある程度の規模までの会社であれば、経営者自身が各従業員に対し個別に人による働きかけを行った方が効果的かつ効率的である場合もあります。
しかし、仕組による働きかけと比較した場合、人による働きかけはその効果持続期間や効果波及範囲が限定的で、マネジメントの力量や個人間の相性によって効果の再現性にもムラがあるため、ある程度の人数を対象に働きかけを行っていかなければならない場合は、仕組による働きかけが効率的となります(念のための注意ですが、人による働きかけと仕組による働きかけはどちらかだけやればよいというものではなく、どちらもやるのが望ましいものです。)。

人事制度は代表的な仕組による働きかけです。

人事制度の成立要件

人事制度とは組織目標を持続的に達成していくために、経営者と従業員双方のニーズが重なりうる領域を見出しやすくする暫定的な枠組みであると説明しましたが、ここで従業員側のニーズを確認しましょう。

従業員側のニーズとして挙げられるのは以下の3つです。

  • 金銭的充実
  • 仕事そのもののやりがいや楽しさ
  • 精神的充実(一体感・達成感・成長実感・承認・自己実現等)

経営者側のニーズから人事制度の中目的が導出されたように、これらの従業員側のニーズからは人事制度を機能させ中目的を達成するための成立要件が導出されます。
人事制度の成立要件は以下の4つです。

  • 明確性
  • 志向性の一致
  • 透明性
  • 公平性

明確性

人事制度の内容や評価基準、期待される行動が誰にとっても理解しやすく、誤解の余地が少ない状態であること。あいまいさを減らし、行動指針として機能する明快さを備えている必要があります。

志向性の一致

制度が示す期待や組織の方向性と、従業員自身の価値観やキャリアの志向が大きくかけ離れないこと。組織と従業員の「目指すもの」の重なりをつくることで、制度の受容性と効果が高まります。

透明性

制度がどのように運用され、評価や処遇が決定されるのか、そのプロセスが見える状態であること。納得感を持てるように情報がオープンに説明され、隠れた基準や不透明な裁量が少ないことが大切です。

公平性

制度の適用ルールや基準が一貫しており、誰に対しても公正に扱われること。恣意的に変わらない運用を通じて、従業員が「評価や処遇に差別や不公平がない」と信頼できる状態を確保することが重要です。

日本の主流な人事制度の変遷

人事制度は自社の戦略実現のために設計されるものであるため、当然その設計はその時々の時代背景・経営環境に大きな影響を受けるものです。
そのことを理解するために、これまでの日本の主流な人事制度の変遷を簡単に確認しましょう。
「●●主義や●●制度はそれ自体が悪いものだ」という絶対的なものではなく、時代の変遷や当初想定していた運用から逸れてしまうことで「他の主義や制度と比較して●●主義や●●制度がそぐわなく」なる場合が相対的に増えるものだということもご理解頂けると思います。

また、ここで紹介しているのはあくまでも時代背景から来る主流の話であって、どの時代のどの経営環境においても企業固有の状況で主流とは異なる主義や制度を設計することは当然あり、今後もそれは変わらないという点はご留意下さい。

戦後~復興期: 年功主義

この時期は物資が欠乏しており大きな需要があったため、従業員は一丸となってその時に必要なことは何でもやるのが合理的でした。また、インフレの進行で労働者は生活を安定させることが重要であったという事情もあり、家族的な労使関係の中、年齢や扶養家族数などに基づく年功的・生活保障的な要素の強い制度だったと言われています。

高度経済成長期~80年代: 職務主義と能力主義

高度経済成長期初期では、経済成長の中で大量生産大量消費型のマーケットに対応するために誰でもなんでもやる体制から機能別組織への移行が進んだことと、インフレの終息と労働者の高学歴化を背景に年功的・生活保障的な制度への批判が高まったことから、職務をベースとした制度への移行が試みられました。
しかし、職務をベースにした制度の運用の煩雑さ、急拡大期には多能工的・ジェネラリスト的な人材マネジメントの方が便利であること、これまでの家族的労使関係・終身雇用的な雇用慣行の慣性の強さ等の理由もあって、職務をベースとした制度が主流として定着することはありませんでした。

その後オイルショックを経て経済成長が鈍化すると、企業は業績・組織拡大によるポスト増加の実現が困難になり、戦後の若年労働者だった層の高齢化と相まって、従来の様に年齢・勤続年数によって従業員を昇進させていくにはポストが足りない状況になります。それを受けて、昇進(ポスト)と昇格が分離されて連動していない、すなわち職務遂行能力に基づいて昇格・昇給が行われるが昇進はまた別途の選抜を経て決められる仕組である職能資格制度(能力主義の代表格)が主流として根付くことになります。

バブル崩壊後: 成果主義

バブルが崩壊し経済の悪化と競争環境の激化が進むと、戦後以来の成長を前提とした仕組が機能しなくなり始めました。能力による格付けを謳う職能資格制度ですが、能力を直接的に測定するのは難しく実際には代理指標として年齢・勤続年数を用いた年功的な運用が続けられていることが多かったこともあり、高資格者の増加とそれに伴う人件費高騰・下方硬直化の問題が顕在化しました。

この問題を解決するために導入が進んだのが成果主義を取り入れた制度でした。これはこれまでの能力主義の制度を否定して根本的に置き換えるようとするものではなくむしろ補完するという性格の強いもので、企業や個人の成果に応じて等級・報酬を弾力的に運用しやすくすることを通じて人件費高騰に歯止めをかけるためのものでした。この狙いは一定の役目を果たしたと考えられますが、一方で成果主義がそぐわない企業・職種でも一緒くたに導入してしまったケース等々もあり、成果主義=失敗といったイメージの方が強く残っているように感じます。

これまで見てきたことと同様、今後についても環境の変化に応じて望ましいと考えられる主流な主義・制度は変わっていくでしょう。

現在・今後の人事制度のトレンドに影響を与える要因

前章で確認した通り、人事制度はその時々の時代背景・経営環境に大きな影響を受けるものです。ここでは、現在・今後の人事制度のトレンドに特に大きな影響を与えるであろう2つの要因をご紹介します。

VUCA

VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた言葉で、変化が激しく先行きが見えない状態のことを指します。

VUCAと言われる現在の経済・社会情勢は、その傾向は強まることはありこそすれ緩まることはないと見られており、今後も企業はその中で舵取りをしていかなくてはなりません。
変化に適応していくこととその一方で変えずに守ることを同時にマネジメントする必要があり、その要求に応えうる人事制度の設計・調整・運用を行っていけるかどうかが重要になるでしょう。

人口急減・ウルトラ高齢社会

世界全体の潮流であるVUCAに加えて、日本では人口の急減とウルトラ高齢社会*の局面を迎えます。
国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(令和5年推計)の出生中位・死亡中位推計よると、2070年時点の日本の総人口は現在の約7割の8700万人に減少、総人口に占める65歳以上人口の割合は38.7%(2020年は28.6%)になります。

生成AIを始めとした各種テクノロジーの進展・活用によって従来と同じアウトプットを出すのに必要な労働力は減少するでしょうが、それが総人口減少に伴う労働力人口の低下を補完しきれない場合(そしておそらくそうなるのでしょう)、人手不足や人材の需要供給間での質的なアンマッチが激化します。
人材獲得・確保競争が激化する中で、採用面でのデモグラフィックダイバーシティからのDE&I浸透、そしてその多様な労働力を束ねて成果を出すマネジメントの仕組とケイパビリティの構築を進められた企業が存続に有利になっていくでしょう。

【関連記事】人口急減・ウルトラ高齢社会の組織・人材マネジメントについてはこちら

(* 国連の定義に沿ったつもりの勝手な造語です。総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が28%以上の社会という意味で使用しています。国連では、7%以上の高齢化社会、14%以上の高齢化社会、21%以上の超高齢社会まで定義されています。)

人事制度の設計・移行・定着化方法

人事制度を設計・移行・定着化する際の流れについて、ステップごとに解説します。
なお、等級制度・評価制度・報酬制度の詳しい設計方法についてはそれぞれの別のページでご説明していますので必要に応じてそちらもあわせてご参照下さい。

STEP1.前提の把握・整理

まず最初に、人事制度を設計するにあたっての前提の把握・整理を行います。
人事制度は企業の組織・人材マネジメントを構成する要素のひとつですので、人事制度を単独でいきなり設計し始めるのではなく、企業自体や組織・人材マネジメントの全体及びその他の構成要素を理解することが大切です。
企業の基本情報・今後の展望と現在の組織状況・組織課題からはじめ、その2つを元に設定される今後の組織・人材マネジメントの基本コンセプトとそれを具体化した仕組や要件という順番で把握・整理を行っていきます。人事制度設計の範疇を超えることにはなりますが、場合によってはこのステップ1の前提内容自体から設定・設計することになることもあります。
以下、それぞれの概要を説明します。
企業の基本情報と今後の展望
企業の基本情報と今後の展望として、企業の事業内容・企業の歴史・経営者・ミッション・ビジョン・バリュー・顧客ニーズ・製品/サービス特性・ビジネスモデル・強み・ケイパビリティ・中期戦略・成長ステージ・組織構造・人材マネジメントポリシーとこれまでの実践・現在の人事制度・職種・職群・従業員数・売上構成等々について把握・整理します。
企業を理解することが人事制度設計の第一歩です。
現在の組織状況・組織課題

現在の組織状況・組織課題を把握・整理します。
主に経営者や従業員へのインタビューや組織診断・360度フィードバック等のサーベイの活用によって情報を収集します。前ステップで確認した企業の歴史や人材マネジメントポリシーとこれまでの実践も状況や課題を把握するのに役立ちます。

また、現在の組織状況を把握するのと並行して、どの程度のペースでどの程度の人事制度の変化を企業が現実的に許容出来そうなのかの見極めを行うことも大事です。STEP2の基本設計で行う議論の中のひとつの論点となります。

今後の組織・人材マネジメントの基本コンセプトと具体的な仕組や要件

上記の2つを元に設定された組織・人材マネジメントの基本コンセプトを確認します。
基本コンセプトは、組織・人材マネジメントを通じて何を実現しようとしているのかを端的に表したもので、人事制度も含めて以降設計される各種の具体的な仕組や要件に通底する概念です。

基本コンセプトから具体化される人事制度以外の主な仕組や要件としては、組織構造(現在・将来)・意思決定・業績モニタリング・主要ポジションの人材要件等があり、これもあわせて確認します。

STEP2.基本設計

基本設計では、等級制度・評価制度・報酬制度(・人材開発制度)と各種ポジションに求められる考え方・行動・そのレベル感について素描します。

ここでは各制度の詳細までは踏み込まず、基本コンセプトとの整合性の確認、求められる考え方・行動・そのレベル感のすりあわせ、各種制度の概要と制度間の整合性の確認が出来る程度の抽象度で設計を行います。

また、上記以外でこの時点でやっておいた方がよい重要なこととして挙げられるのが、特に制度が現状と大きく変わる場合には新旧制度間の根本的な考え方の違いについて理解を深めることと、本当にその変化を起こし定着させていく覚悟を醸成することです。これは次の詳細設計においても継続的に取り組んでいくべきものでもありますが、この時点から意識しておいた方がより良いです。理解が進まないまま、覚悟が決まらないままに進めていってしまった結果、いざ移行の段になってからちゃぶ台返しで最初からやり直しになってしまう様なことを避けるようにしましょう。人材フロー(採用→配置→代謝)のうち特にうまく活躍出来ていない人材の処遇等のネガティブなものについては、特に意識して認識の確認をするように心掛けるのが望ましいです。

前ステップで整理した内容にも立ち戻り、確認を行います。
他のものについては整合的であることが求められますが、現在の組織課題については必ずしも新制度がそれを解決するような内容になっていなくても構いません。全ての課題を解決しうる制度というものはそもそも存在しないため、優先度の高い課題に対しての影響を中心に確認を行い、そうではない課題については捨て置くつもりの心構えで取り組むのが良いでしょう。
この前ステップで整理した内容に立ち戻っての確認は、次のステップでも都度同様に行います。

ここまでに記述した内容に問題がなければ、次のステップに進みます。
1度で終わることは中々なく、多くの場合は素描と議論を重ねながら理解と覚悟を醸成していくことになるかと思います。

STEP3.詳細設計

ここで初めて各制度の具体的な設計を行います。
各制度については大枠としては等級制度・評価制度・報酬制度の順に設計していくことが一般的ですが、立ち戻ったり全制度を何周も回したりしながら設計を確定させていくことになります。
それぞれの制度の詳細や具体的な設計方法については別の記事でご紹介しておりますのでご確認ください。
 
▶︎等級制度の詳細についてはこちら
▶︎評価制度の詳細についてはこちら
▶︎報酬制度の詳細についてはこちら
詳細設計が終わった後、組織・人材マネジメント全体と齟齬がなければ次のステップに進みます。
必要に応じて詳細設計の調整を行います。
 

STEP4.移行準備

人事制度の設計が完了したら、新制度へ移行するための準備を行います。
一般的には企業の規模と変化の幅に応じて移行準備に1~3ヶ月を要します。
望ましい考え方や行動をしてもらえる確率を上げるために、新制度の趣旨・変更点・運用上のポイント等について対象者別に丁寧にコミュニケーションし、理解と前向きなムードを醸成していきます。

具体的には、新制度の社内向け説明会と、運用に現場の協力が不可欠な評価制度について評価者・被評価者向けの研修を行います(このタイミングで初めて管理職になる従業員がいる場合は、新任管理職研修も行います)。社内広報があれば、それらも活用も重要です。
ここでは詳細設計後の移行準備について記述しましたが、厳密には移行準備のための工夫は制度移行プロジェクトが立ち上がった時から継続的に行われます。どのタイミングで誰に対して何を発信したりプロジェクトへの協力を依頼したりするのか等も移行準備の一部と考えられます。

 

STEP5.移行・定着化

移行後の半年~1年程度は新制度定着化のための期間に充てます。
新制度の趣旨が浸透・達成されているのかのモニタリングと必要に応じて新制度の調整を行っていきます。
社内から集まる意見を吸い上げるのは非常に重要ですが、それを元に拙速に新制度の調整は行わず、前制度への揺り戻しなのか・新制度の運用が未熟なのか・新制度の設計自体の問題なのかの切り分けを行った上で適切に対応していく姿勢が求められます。

まとめ

本記事では、人事制度がどういうものであるのか、その目的、影響を与える要因、設計・移行・定着化の方法について概要を紹介しました。
貴社の人事制度の設計の際に何か役に立てば幸いです。

フォスターリンク株式会社では、人材マネジメント企業としての実績とノウハウを活かし、人事制度に関するコンサルティングを行っています。人事制度の設計や運用などにお困りの方は、まずはお気軽にご連絡ください。