コラム

【組織開発とは】コンサルタントが語る定義と企業へのメッセージ

フォスターリンク株式会社
代表取締役社長
倉島 秀夫

【この記事の執筆者】
フォスターリンク株式会社 代表取締役社長 倉島 秀夫

一橋大学経済学部卒業後、日本合同ファイナンス㈱(現ジャフコグループ㈱)入社。国内外でベンチャーキャピタル業務に従事した後、サンフランシスコに移住。PREMIO Inc. を設立し、現地経営責任者に就任。2000年に帰国後フォスターリンク㈱設立。組織・人材マネジメントコンサルタントとして、企業の課題解決に携わる。

先日大学3年生の息子が、大学の体育会剣道部主将に就任しました。「主将になったら何をするんだ?」と彼に聞いたところ、“まずは目標とチームビジョンを決めた”とのこと。目標は『全日本学生剣道大会に出場すること』(関東学生剣道大会でのベスト20校が出場権獲得)、そしてチームビジョンは『応援したくなるチーム』としたそうです。そして次に、“目標とビジョンに向けて部員一人ひとりが何をするのかを考えてもらって、発表し合った”そうです。そして、彼が最後に言っていたのは、“あとは対話を続けることかな…”と。

冒頭にこの話をご紹介したのは、息子が主将に就任してやろうとしていることは、おそらく組織開発の第一歩だからです。 

組織とは何か?

組織開発の話しの前に、まずは組織とは何か?ということから考えてみます。単なる“人の集まり”と“組織”を区別する3つの要件は、①共通目的、②協働意思、③意思疎通、であるという経営学者のチェスター・バーナードの説明が個人的には一番わかりやすいと思っています。例えば、バス停に並んでいる人たちはバスに乗るという共通目的はありますが、協働意思や意思疎通(ご近所さんだと会話はあるでしょうが)はありませんので、組織とは言えません。 

また組織開発の有名な研究者であるエドガー・シャインは、1965年に記した著書『組織心理学』の中で組織を「ある共通の明確な目的、ないし目標を達成するために、分業や職能の分化を通じて、また権限と責任の階層を通じて、多くの人びとの活動を合理的に協働させることである」と定義しています。(※ODNJのウェブサイトより抜粋・編集) 

剣道部としての目標(=共通目的)を設定し、そのために部員がやるべきことを宣言し(=協働意思、貢献意欲)、対話を続ける(=意思疎通)。組織であることの条件は満たしました。 

ただし、これはあくまで第一歩であり、組織としての要件を満たしたに過ぎません。ここから組織力をどう高めていくか、『応援したくなるチーム』になれるかは、剣道部としての組織開発への取り組みが継続できるかどうかによります。 

組織をまとめていくことは、30年以上前に私が学生だった頃も大変なことでしたが、今の時代は若者の中でも多様な価値観が広まり、ますます大変になってきたように思います。 

価値観が比較的均一化されていた時代はすぐに一つにまとまることができた組織が、価値観が多様化すると、なぜ一つにまとまるのに苦労するようになるのでしょうか? 

価値観が均一だった時代は、“何を目指すか”(共通目的)もわりと似通っていて、そのために皆でがんばろうという意欲(協働意思)も持ちやすかったのでしょう。
それが、価値観が多様化すると、そもそも何を目指したいのかが人によって違うわけです。そして、組織で働く理由(目指すところ)が人それぞれ違うということになると、そのことが協働意思にも影響し、さらに意思疎通が難しくなる、ということになるのではないでしょうか。 

そうは言っても、会社は組織である以上、組織力、チーム力を高めていくしかないわけです。そこで必要になるのが「組織開発」(Organization Development、略してOD)です。 

組織開発とは何か?

組織開発とは何か? 一般的に組織開発と聞くと、“組織の風通しが良くて、コミュニケーションが活発に行われていて、活性化されている状態にもっていくこと”といったイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか? 

組織開発の専門団体であるOD Network Japan(ODNJ)のウェブサイトでは次のように書かれています; 組織開発の定義にはさまざまなものがありますが、基本的には、組織開発は「組織のプロセスに気づき、良くしていく取り組み」と言えます。組織開発についての多くの定義で共通しているのは、以下の3つです: 

行動科学の理論や手法を用いること 

組織の効果性や健全性を高めていくこと 

組織のプロセスに対して計画的な働きかけをする取り組みであること 

『組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である』という定義もあります。組織の効果性とは組織の目標に到達する力、組織の構成員やチームの潜在力を発揮できること、環境の変化に適応し対処できることを指しています。また組織の健全さは仕事生活の質、お互いの関係性の質、権力の最適なバランス、ワークモチベーションの高さなど、組織内の人々の「幸せ度」と関連しています。そして組織の自己革新力とは、組織が絶えず学習し続け、自らが変革に取り組み続ける力を持つことを意味しています。(※ODNJのウェブサイトから抜粋・編集) 

学術的な理論や手法はもちろん大切だと思いますが、私自身は組織開発の実践的なアクションとしては、以下のような内容と順番になると考えています。 

①ミッション、ビジョン、バリュー(文化)、事業モデル、事業戦略を確認する。 

②組織図を考える。事業戦略に合っていることが大事(「組織は戦略に従う」)。

③各部門でどのような仕事(職務)があるのかを整理する。 

④人事制度を整える。特に等級制度と評価制度が大事。

⑤仕事を進めるうえでの各種ルールを整備する(職務権限、意思決定、情報共有…等)。

⑥戦略・制度・各種ルールといったハード面を全従業員に周知徹底する。明文化し、繰り返し説明し、質疑応答することが大事。

⑦ソフト面(人間的側面)では、リーダーシップは発揮されているか?、従業員は働きがい・共感・働きやすさ・貢献意欲を感じているか?、といった点を定期的に確認する。 

なお近年のトレンドワードとして、「エンゲージメント」や「従業員の体験」(Employee Experience、略してEX)というものがあります。「エンゲージメント」は組織に対する愛着心や深いつながりのことで、EXとは組織や職場で従業員が働くことを通じて得られるすべての経験・体験のことです。これらはともに組織開発の結果として得られるものであり、組織開発のゴールとも言えますので、起点となるのはやはり組織開発だと思います。 

アメリカの組織開発、日本の組織開発

欧米企業はこの30年間、組織開発に取り組んできたという話しが最近刊行された『人材投資のジレンマ』(守島基博 他著)という本の中で紹介されていました。そういう話しを聞くと、“アメリカ人は個人主義でチームワークが苦手だから組織開発が必要だったけれど、日本人は集団主義でチームワークは得意だから組織開発なんて必要なかったのだ!”と思われる方も多いのではないでしょうか。 

30年以上前の話しになりますが、チームワークに関して今でも覚えているエピソードがあります。それは私がアメリカの大学に1年間留学していたときですが、ある授業で、課題図書を読んでその内容をグループごとにまとめて発表する、というグループワークがありました。私のグループでもどのように進めるかを相談することになり、メンバーが集まりました。どうするのかなと思っていたら、アメリカ人の学生が、Johnは第一章、Mikeは第二章というように、最初から読む場所を分担したのです。そして最後に、“We are the team!”、と歓声を上げたのです。これにはちょっと驚きました。もちろん私もある章を担当させられましたが、日本ならとりあえず全員が一通り読んだ上で、全員で話し合ってまとめるんじゃないだろうかと思った私はアメリカ人が考えるチームワークに新鮮な印象を持ちました。  

アメリカでチームワークというと、まずメンバー個々人の役割に応じて自分の持てる力を最大限に発揮し、その力を結集することがチームワークだ、という解釈のようです。つまりチームワークとは、仕事の成果を上げるための一つの「機能(ファンクション)」です。結構ドライな感じです。  

これに対して日本でチームワークというと、まずは“チームのために尽くす”という強い想いがあって、そして自ら進んで役割を認識し、さらに“チームのためには自分を犠牲にしてでも役割を果たす”、くらいのチーム愛のニュアンスが感じられます。つまりチームワークとは、メンバーの心を一つにする個々の結び付きだとか、精神(スピリット)のようなものです。何となくウェットな感じです。 

確かに日本人は、“チームのために尽くす人”を見るのが好きです。サッカーのなでしこジャパンや野球の侍ジャパンの戦い方を見ていてもわかりますが、日本の選手はチームの中で自分に期待されている役割を理解し、チームに貢献するために全力を尽くそうとします。こうしたところは日本のプロ野球選手やJリーグのサッカー選手がメジャーリーグや海外のサッカークラブに移籍したときに、高く評価される点でもあります。  

基本的に仕事でチームワークが求められることが多いのは日本もアメリカも同じです。ただ日本では、チームに対するメンバーの献身的な姿勢がベースにあるので、他のメンバーに迷惑をかけられないという理由で自己犠牲の精神が尊重されたりします。そしてそのために、メンバーは長時間労働になってしまう傾向があるのかもしれません。一方アメリカのチームワークはあくまでメンバー個々の専門スキルの提供という機能的な働き方なので、自分の役目が終わればさっさと先に帰ってしまってもチームワークは成り立つ、という理屈です。  

欧米企業と日本企業の組織マネジメントにも、チームワークに対する概念の違いが反映されているような気がします。組織としての目的(ゴール)を共有しているという点ではアメリカ企業も日本企業も同じですが、目的を果たすためのスタイルや方法は異なる部分が多いように思います。組織の作り方も、アメリカ企業はジョブ型、日本企業はメンバーシップ型と言われる所以かもしれません。 

組織開発とはチーム力を高めるための取り組みなので、チームワークについて思うところを述べました。組織開発に話しを戻しましょう。 

組織開発とは何から取り組むべきか?

では組織開発はどこから始めるのが良いのでしょうか? 組織によって抱える問題は異なります。ある組織は共通目的が明確になっていないことが問題でしょう。またある組織では共通目的ははっきりしているものの、メンバーの協働意思や貢献意欲が希薄であることが問題かもしれません。またある組織ではコミュニケーション(意思疎通)のプロセスが確立されていないために、大切な情報がメンバー間で共有されていないことが問題だったりします。 

私見ですが、アメリカと日本のチームワークの良いとこ取りをした組織開発が良いのではないかと思います。どういうことかと言うと、アメリカのチームワークは共通目的がはっきりしています。目的がはっきりしなければチームワークも稼働しません。目的がはっきりすると、その目的を果たすためにどういう機能(役割)が必要かが明確になりますので、それぞれの役割分担も決まります。ここからが日本のチームワークの出番です。日本チームは個々のメンバーの貢献意欲の高さが特長です。チームの目的に共感してもらい、個々のメンバーの役割を明確にしてあげれば、もともと高い貢献意欲がさらに高まるでしょう。また組織の細かい運営方法を決めたり、縦横のコミュニケーションチャネルを作ったりするのも日本チームが得意とするところです(アメリカチームはレポートライン、つまり縦のコミュニケーションは強いですが横のコミュニケーションは強くなかったりします)。 

理想の組織開発を進める上で、組織を支えるミドルマネジメントが重要な役割を果たすように思います。日本企業のミドルマネジメントは30代~40代の人が多いのではないでしょうか。どのような事業戦略で会社を成長させようと考えているのか、どのような組織文化を醸成していきたいか、そうしたことを考えるのはトップマネジメントの役割です。しかしながら、それを深く理解し、組織全体に広めていくのはミドルマネジメントの人たちです。日本企業のミドルマネジメントが組織の運営方法を自ら考えて、意思疎通の仕方やコミュニケーションのとり方も自分たちが決めることで、組織は活性化すると思います。 

今日、日本企業の組織の長を務めているのは50代~60代の男性社員が多いと思いますが、はっきり言ってこの世代の人たち(私もこの世代ですが)は、組織開発の重要性について今一つピンときていません。もしくは“組織開発とは上意下達を徹底させることである”、といった間違ったイメージを持っていたりします。思い切って組織開発の主役を30代~40代のミドルマネジメントの人たちに任せてみてはどうでしょうか?