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139日ぶりの復帰。“ただ、やってみよう”を信じて——林咲希が語る、コーチャビリティの本質

2025年、春。
バスケットボール日本代表キャプテン、林咲希選手が139日ぶりにコートへ帰ってきた。怪我からの復帰という朗報は、日本中のバスケファンに大きな勇気と希望を与えている。

しかしその裏側には、葛藤と向き合いながらも、「ただ、やってみよう」と一歩を踏み出し続けてきた林選手の強さがあった。インタビューでは、幼少期から現在までの歩み、そして彼女の中に根付く「コーチャビリティ」について、深く語ってくれた。

<プロフィール>
林 咲希 (はやし さき)
日本の女子バスケットボール選手。福岡県出身で、精華女子高等学校、白鷗大学を経て国内トップリーグ所属チームへ入部。ポジションはシューティングガード(SG)で、正確な3ポイントシュートを武器に活躍。2021年東京オリンピックでは日本代表として銀メダル獲得に貢献。国内リーグでも高い得点力を誇り、チームの中心選手として活躍中。持ち前の勝負強さとシュート力で、日本バスケット界を牽引している

「自分にベクトルを向ける」ことから始まった再スタート

怪我で離脱していた139日間。林選手は、もどかしさや不安と向き合いながらも、自身の価値を問い直す時間を過ごしていたという。

「リハビリは簡単じゃないし、復帰後にちゃんと動けるかという不安もある。でも、自分が昨日できなかったことが今日できるようになった、そういう日々の積み重ねに楽しさを感じられるようになったんです。」

一歩ずつ、自分の体と心の変化を受け入れながら前へ進む林選手。その姿勢には、まさに“学びや指摘を前向きに捉え、実践に移す柔軟性”がにじむ。

7歳で出会ったバスケと「できるようになる」喜び

林選手がバスケットボールを始めたのは7歳のとき。バスケット一家の中で、自然とボールに触れる時間が増えた。

「ボールを触るのが好きで、シュートを打つのが好きで。できなかったことができるようになる、そういう瞬間が本当に楽しかったんです。」

“成長の楽しさ”を知っているからこそ、うまくいかない時期でも歯を食いしばって続けてこられた。林選手の中で“努力”は特別なものではなく、日常の一部になっていたのだ。

「人に学ぶ」ことへの挑戦と変化

大学進学後、ポジションの変更や身体的なハードルに直面した林選手。最初のうちは実力が伴っていないという思いもあり、周囲に相談することができず、自分への苛立ちを感じながら練習に没頭していた。

「大学1年のときは、人に聞く勇気がなかった。でも2年生になって試合に出るようになると、自然と“どう動けばいいですか?”と先輩に聞けるようになってきたんです。」

先輩たちの“寄り添い”に触れながら、林選手は少しずつ「聞く力」と「受け入れる力」を育てていった。どんな立場でも、自分が何を知らないのかを認識し、それを埋めようとする姿勢。それは、まさにコーチャビリティの核心だ。

受け入れる強さと「一回やってみる」勇気

「誰かの意見は、まず受け入れる。合うか合わないかは、やってみてから考える。」

林選手のこのスタンスは、誰にとっても学びとなる姿勢だ。どんなに優れたアドバイスも、実行しなければ意味がない。受け入れ、やってみる。たとえ結果が違っていても、それは無駄ではない。

その背景には、学生時代に培った「目線を合わせる」という意識もあるという。

「自分じゃない誰かの立場になって考えてみる。同じ目線で物事を見て、やっとその意見の本質がわかる気がします。」

“無理”を経験して見つけた、心の整え方

以前在籍していたチームでのこと、代表選考に関するプレッシャーと、試合に出られない現実に打ちひしがれた日々。そんな時、姉の紹介で出会ったメンタルコーチが転機となった。

「最初は受け入れることに抵抗もありました。でも、限界だったからメンタルコーチのところに行った。泣きながら話したことで、少しずつ気持ちを整理できるようになった。」

メンタルコーチとの対話を通じて学んだのは、“今の自分を否定せず、まず認めること”。さらに一歩進んで、自分ができていないことも受け入れることで、プレッシャーの中でも折れない心を手に入れた。

“伝えること”と“聞き出すこと”で支えるリーダーへ

代表キャプテンとして、後輩たちへの接し方にも林選手ならではのこだわりがある。

「まずは自分から話しかけにいく。不安を抱えてそうな子がいたら、まず“どう思ってる?”と聞いて、どんどん喋らせるようにしてるんです。」

“寄り添う”こと。“引き出す”こと。そして“受け入れる”こと。林選手が自分の経験から得たコミュニケーションの技術は、まさに「人を育てる力」へと昇華している。

コーチャビリティの体現者として

林選手は、単なる「受け身の学び手」ではない。学んだことを自分なりに咀嚼し、行動に移し、そして周囲にもその学びを伝播させていく。

失敗も、苦悩も、迷いもあった。けれどそれを「学びの材料」として自分の中に取り込み続けてきたその姿は、まさにコーチャビリティの体現者といえるだろう。

「不安はもちろんある。でも、とりあえずやってみようと思えるんです。」

139日ぶりの復帰。
林咲希選手が復帰を果たしたその背景には、数々の挫折や挑戦がある。彼女の成長の過程は、まさにコーチャビリティを実践し、フィードバックを自分の成長へと繋げてきた証。その姿勢から学べることは、バスケットボールに限らず、どのような分野においても重要な要素と言える。復帰後の林選手のプレーに、今後ますます期待が高まる。