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採用におけるコーチャブルな人材の見極め方


コーチャブルとは、コーチャビリティ(「個人の成長とパフォーマンス向上を促進するために、建設的なフィードバックを求め、受け入れ、実行する意欲と能力」)がある状態のことを指します。
語源はコーチ(=Coach)+可能な(=able)で「コーチングを受け入れられる」というものですが、ここで言うところのコーチは必ずしも所謂コーチング(「答えは本人が持っている」という原則のもと、目標達成に向けて質問と承認を繰り返すことで本人からそれを引き出していく手法)に限らないため、広く他者から学びそれを活かせる意欲や能力全般のことだと捉えて頂ければよいかと思います。

本稿では、採用において候補者の方がコーチャブルであることの重要性とそれをどう見極めるかについて紹介していきます。

【関連記事】コーチャビリティに関しては、こちらの記事をご確認ください。

組織・人事コンサルタント

一橋大学商学部卒業後、㈱ユーグレナ入社。
直販事業立ち上げの中で、主にフルフィルメント業務全般の立ち上げと整備に従事。
同社IPO後に起業を経て、2015年フォスターリンク㈱入社。
国内の中堅・中小企業を中心に、組織設計・要員計画・人事制度設計/導入等のコンサルティングサービスや組織開発・人材開発の支援を行っている。

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コーチャブルな人材の見極めの重要性

募集ポジションに対してスキル・知識・経験や報酬を含めた労働条件も履歴書上は全てマッチしていた候補者を採用してみたものの、実際一緒に仕事し始めてみると少しずつ違和感が大きくなっていく。
幾度か仕事の進め方や望ましい行動様式を伝えたり提案してみたりしてみたものの、無視をしているのか伝わっていないのか一向にあらためようとする様子がなく、軌道修正が出来ない。
仕方がないので正式に注意という形を取ってみたら激しく反発され、軌道修正どころが職場の雰囲気自体まで悪くなってしまった。
本人は本人で居心地の悪さを感じ始めたのか、しばらく時間をおいて退職したいとの連絡が来る。
このような経験はないでしょうか?
コーチャブルではない人材がチームに加わると、関係者全員が疲弊してしまうことが多いです。
これは業種・職種・職位を問わず採用全般に共通して起こりうることであり、基本的には採用してしまった後は被害を最小化するようにしていくことしか出来ないため、採用時点で見極めを行うことが重要です。

また、コーチャブルであることが重要なのは組織内の話に限りません。
VUCAと呼ばれる変化の激しい環境の中では顧客のニーズも変化します。
現在自社で提供している商品やサービスに自信を持つことは良いことでもありますが、盲目的になってしまい変化する顧客のニーズに対応出来なくなってしまうようでは競争に置いて行かれてしまうでしょう。そうした中でコーチャブルな人材は、変化する顧客のニーズを汲み取り、いち早くそれを活かしていこうとすることが出来ます。
そういう意味において、コーチャブルであることは単に個人レベルの能力としてだけではなく、チームや組織全体の成長を牽引するような働きをするという点で重要だとも言えるでしょう。

コーチャブルな人材の見極め方

コーチャブルとは、コーチャビリティ(「個人の成長とパフォーマンス向上を促進するために、建設的なフィードバックを求め、受け入れ、実行する意欲と能力」)がある状態のことを指しますので、それを見極めるられるように面接を設計します。
ロールプレイ面接やケース面接等でもフィードバックをどう活かして発展させていくかを見ることでコーチャビリティを推し量れますが、実施するにも評価するにも面接者自身により技量が求められる方法です。
ここでは比較的取り組みやすい質疑応答形式の面接を想定して、2つの質問を紹介しようと思います。

質問を通じた候補者のコーチャブルさの見極めは、それぞれの質問への候補者の回答に対して、より詳しく知りたい点を深堀りするための質問を繰り返していくことで行います。
深堀するための質問は候補者の回答によって様々になりますが、入口となる質問は候補者間で共通させる方が望ましいです。
正解がある種類の質問ではないため、同様の質問に対する回答を候補者間で比較していくことによって、候補者のコーチャビリティのレベルを推し量ることになるためです(候補者間で入口となる質問が異なると比較が困難となってしまいます。)。
最初は入口となる質問を同じにしてもレベル感を推し量るのは困難ですが、10人ほど面接してみると自分なりの感覚を掴めるようになるかと経験上思います。その後は候補者の入社後の活躍を観察し、面接時の自身の判断との差分を確認し、推し量り方のチューニングを続けていくことで、自身の見極める力を向上させていくイメージです(ところで今後はAIが対応出来るようになるのでしょうか?)。

質問①: これまで職場で受けた建設的な批判の中で、最も厳しいと感じた批判を受けた時のことを教えてください。また、その批判にどう対処しましたか?

この質問はコーチャビリティのうち、「個人の成長とパフォーマンス向上を促進するために、建設的なフィードバックを受け入れ、それを実行する意欲や能力」部分について推し量ることを意図した質問です。

この質問を通じて、具体的には以下の様なことを確認します。
必要に応じて追加質問で候補者の回答を引き出していきます。

  • 候補者は何をこれまで最も厳しい批判だったと捉えているか?
  • 候補者は何故それを最も厳しい批判だったと捉えているのか?
  • 候補者が受けた建設的な批判と当社(の募集ポジション)におけるフィードバックのレベルに大きな差はなさそうか?
  • 建設的な批判を受けて考えたことや心理面での変化はどのようなものだったか?
  • 建設的な批判を受けて考えたことや心理面での変化の内容は、当社のバリューや行動指針に沿っていそうか?
  • 建設的な批判を最終的に受け入れたのかどうか?受け入れてないのであればそれは何故か?
  • 建設的な批判を受けてその後なにかを行動に移したか?移していないのであればそれは何故か?

必ずしも建設的な批判を受け入れていなければダメということでもないです。
理由があなたの会社のバリュー、行動指針もしくは明文化はされていない規範の範囲内であると判断出来ればそれでも十分です。その場合は、受け入れた建設的な批判について追加質問してみるのも良いと思います。

それとは逆に、建設的な批判を受け入れたものの実際の行動に移せてなさそうだと感じる回答の方には注意下さい。具体的にどのように取り組んで何をどう変えたのかやその移行期等のエピソードを深堀り質問していくことで、候補者が実際に行動に移したのかそれとも行動したと回答しているだけなのか判断しやすくなるかと思います。

質問②: あなたが職業人として向上させたいと思っていることを教えてください。また、これまでそのためにどの様な試みを行ってきましたか?

この質問はコーチャビリティのうち、「個人の成長とパフォーマンス向上を促進するために、建設的なフィードバックを求める意欲や能力」部分について推し量ることを意図した質問です。
「向上させたいと思っていること」とは能力・スキル・知識・経験等諸々を含むものを意図しているのですが、わかりやすい言葉に言い換えて頂いたり補足して頂いたりした方が良いかもしれません。

この質問を通じて、具体的には以下の様なことを確認します。
必要に応じて追加質問で候補者の回答を引き出していきます。

  • 候補者は何を向上させたいと思っているのか?
  • 候補者は何故それを向上させたいと思っているのか?
  • 向上させたいことは組織や募集ポジションの求める範囲やレベルと大きな差がなさそうか?
  • これまでの学習アプローチとして、いつから、何をしてきて、どこまで進捗しているか?
  • 学習アプローチは妥当そうか?
  • 必要に応じて学習のために自分以外の人を巻き込めているか?その場合、どうお願いしたか?何故その人を巻き込んだのか?

そもそも職業人としての向上を自発的に考えないタイプの候補者もいらっしゃるため、その場合は必要に応じてこれまで職業人として向上させてきたことについての質問で代替下さい。

向上させたいことがあった場合でも募集ポジションのレベル感に対して低く感じるものである場合(極端な例で言うと、本部長クラスの募集ポジションであるにも関わらず、Excelの関数を使えるようになりたい、等。)は、あまり自身の成長に興味がないか、そもそもコーチャビリティ以前に適切に募集ポジションの職務内容を理解出来ていない可能性があるかと思います。

これまでの学習アプローチについては、向上意欲の本気度と本当に学習をしてきたかの確認をします。より具体的な深堀り質問をしていくことで判断がしやすくなります。

学習に自分以外の人を巻き込めているかについては、必ずしも周囲にフィードバックを求めていなかったとしても大丈夫です。その場合、もしこれからフィードバックを求めるのであれば、誰にどのようにフィードバックを求めるのか、それは何故なのかについて追加質問してみるのも良いと思います。

コーチャブルか見極めようとする時の注意点

採用面接全般に言えることかもしれませんが、候補者がコーチャブルかどうか見極めようとする時の注意点をいくつか紹介します。

関係性とタイミング

コーチャブルかどうかを見極めるための質問は、経歴を問うような単純な質問と比較して踏み込んだことを聞くことになることが多いため、候補者とある程度の信頼関係を築けた後に質問することが望ましいです。
また、深堀り質問を繰り返していくことになるため、入口となる質問が2つしかなくても30分程度の時間はすぐに経ってしまいます。
したがって、一次面接の一番最初の質問とするよりは、ある程度候補者群が絞れてきて同一の面接官と何度か顔を合わせたことのある二次や三次面接の質問とするのが良いでしょう。

面接官の態度や雰囲気

上記の関係性の話と関連して、面接官は面接時の態度や雰囲気に注意しましょう。
候補者のコーチャビリティを見極めようとしても、候補者が面接官に良い印象を持っていなければ、本当のところを答えて頂けるものもそうでなくなってしまいます。
例えば本来コーチャブルな人材でも相対する面接官が傲慢に見えれば(「見えれば」です。実際そうでなくても候補者からそう見えれば)、早く切り上げてしまおうと適当な応答をしてもおかしくありません。
そうなっては正しくコーチャブルかどうかを見極められないでしょうし、それは候補者に問題があるのではなく面接官側の技量の問題と言えます。

面接官と候補者はお互いがお互いを選んでいる対等な関係なはずですが、面接官側が「自分が選んでやっているんだ」という錯覚に陥ってしまっていて謎の上から目線な言動を取ってしまっていることが多い様に思います(余談ですが、投資担当や購買担当の方も似たようなことになってしまっている方をお見受けします。)。

候補者がコーチャブルかどうかを見極めようとする前に、まず自身がコーチャビリティを発揮して、候補者にそう思われないような言動を出来ているか同席した面接官からフィードバックを貰いながら定期的に調整していくようにしましょう。

コーチャビリティ診断

本稿では面接におけるコーチャブルな人材の見極め方について紹介しましたが、現在フォスターリンクでは対象者のコーチャビリティを測る診断ツールを準備中です。
採用時だけではなく、入社後に自身がコーチャブルな状態なのかを顧みて頂く機会を持つためにもご利用頂けます(コーチャビリティ研修も承っています。)。

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まとめ

  • コーチャブルとは、コーチャビリティ(「個人の成長とパフォーマンス向上を促進するために、建設的なフィードバックを求め、受け入れ、実行する意欲と能力」)がある状態のことを指す。
  • コーチャブルだと入社後にも軌道修正がしやすいという点で重要。
  • コーチャブルだと本人だけでなくチームや組織の成長にも貢献できるという点で重要。
  • 採用面接で候補者がコーチャブルかどうかを見極めるためにお勧めの質問は2つ
    • これまで職場で受けた建設的な批判の中で、最も厳しいと感じた批判を受けた時のことを教えてください。また、その批判にどう対処しましたか?
    • あなたが職業人として向上させたいと思っていることを教えてください。また、これまでそのためにどの様な試みを行ってきましたか?
  • 候補者がコーチャブルかどうかを見極める質問をするタイミングは、ある程度候補者群が絞れてきて同一の面接官と何度か顔を合わせたことのある二次や三次面接が望ましい。
  • 候補者に本当のところを回答頂ける様に、面接官自身もコーチャブルな姿勢をもって自身の面接時の態度や雰囲気を定期的に振り返ることが大事。

【関連記事】
 ・コーチャビリティとは?
 ・コーチャブルと配置の関係

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参考文献

Entrepreneur. The #1 Thing We Look for in Applicants: Coachability. https://www.entrepreneur.com/leadership/the-1-thing-we-look-for-in-applicants-coachability/401726,(5/16/2024)
Indeed. 12 Coachability Interview Questions (With Sample Answers). https://www.indeed.com/career-advice/interviewing/coachability-interview-questions,(5/16/2024)
Interview Baba. Top Coachability Interview Questions & Answers. https://interviewbaba.com/coachability-interview-questions/ ,(5/16/2024)
Weiss, J. A. and Merrigan, M. (2021)”Employee Coachability: New Insights to Increase Employee Adaptability, Performance, and Promotability in Organizations” International Journal of Evidence Based Coaching and Mentoring, 2021, Vol.19(1), pp121-136.