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コーチャビリティとは?定義・重要性から向上方法まで徹底解説!

コーチャビリティ(コ―チアビリティ)とは、フィードバックをする側ではなく、フィードバックを受け取る側に焦点を当てた考え方です。元々は成功するスポーツ選手の資質と見られていたもので、コーチャビリティの高い選手のことを「彼/彼女はコーチャブルだ」と評したりします。
最近では採用基準としている企業があったり、ベンチャー投資の際のベンチャー経営者に求める要件になっていたり等、様々な場面に活用が広がっているようです。

今回はコーチャビリティとは何か、その重要性、能力の向上方法等について、WeissとMerriganの論文を中心に解説します。

【関連記事】「フィードバック」については、こちらの記事もご確認ください。

組織・人事コンサルタント

一橋大学商学部卒業後、㈱ユーグレナ入社。
直販事業立ち上げの中で、主にフルフィルメント業務全般の立ち上げと整備に従事。
同社IPO後に起業を経て、2015年フォスターリンク㈱入社。
国内の中堅・中小企業を中心に、組織設計・要員計画・人事制度設計/導入等のコンサルティングサービスや組織開発・人材開発の支援を行っている。

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コーチャビリティ(コーチアビリティ)とは?

コーチャビリティとは、コーチングを受けることが出来たり、コーチングを受けた時に良い方向に機能しやすいといった意味合いの言葉です(英語で表記するとcoach+abilityでCoachabilityです。)。特に組織の従業員のコーチャビリティについては、その研究をしているWeissとMerriganの定義によると「個人の成長とパフォーマンス向上を促進するために、建設的なフィードバックを求め、受け入れ、実行する意欲と能力」とされています。

元々はスポーツの文脈において素晴らしいパフォーマンスを生み出すための基本的な資質のひとつとして、1960年代後半から1970年代前半の間に生まれて紹介された概念でした。そこから長い間スポーツの文脈上でしか研究が進んでいなかったのですが、2010年代以降になって営業担当者のコーチャビリティの研究を契機に仕事・組織の文脈での研究が進みました。

前述のWeissとMerriganの定義から、コーチャブルな従業員(=コーチャビリティの高い従業員)とは下記の意欲や能力が高い従業員のことを指します。

 ・フィードバック探索行動
 ・フィードバック受容性
 ・フィードバックを反映した行動の実行

※フィードバックとは、相手の行動や成果に対する評価や改善点を伝えることで軌道修正し、より良い行動や成果に導いていくための手法を指しますフィードバックについて詳しくはこちらの記事で説明しておりますが、とりあえずここでは「アドバイス」と読み替えて頂いて構いません。

フィードバック探索行動

フィードバック探索行動は、受動的ではなく能動的に自身の行動についての適切性等についてフィードバックを求める行動のことを指します。
要は、「今の私の●●どうでした?アドバイス下さい」と聞いて回っているかという事です。

フィードバック受容性

フィードバック受容性とは、フィードバックを受け入れる意志や実際の受け入れの程度のことを指します。
アドバイスに対して、まずは聞く耳を持とうとすること、それを咀嚼しようとすること、そして(それが必要であれば)取り入れようとするということです。

フィードバックを反映した行動の実行

フィードバックを反映した行動の実行は、フィードバックを受けた後にそれを反映して実際に何かしらの行動に移したかどうかを指します。

なぜコーチャビリティが注目されているのか?

VUCA時代の到来

Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をと って呼ばれるVUCAの時代。2016年のダボス会議、世界経済フォーラムで経済用語として使用され、定着しました。

近年では、テクノロジーの発達、組織環境の変化、働き方改革など個人と組織を取り巻く環境は大きく変化しています。時代の変化と共に、働き方や企業の果たすべき役割も変化を遂げています。
経済産業省は2019年の「人材競争力強化のための9つの提言(案)」の中で、今後はVUCA時代の環境変化によって、日本企業に急速かつ激しい変化が起こると示しています。同時に、その時代下での労働者は、状況に合わせて自分自身を柔軟に変えていくことが必要であると述べています。

具体的な対策の一つとして、個人の自律的な成長や学び直しを後押しし、支援する機会の提供を挙げており、労働者が状況に柔軟に対応しながら生き抜いていけるようにすることを提言しています。
加えて、団塊の世代の大量離職によって、労働力の確保だけでなく技術力の継承が危ぶまれています。
その中で、職場内で教えてもらうことを待つのではなく、自ら学ぶことが重視されているということが背景に挙げられます。

人材開発体系の変化

これまでは、企業の人材開発の場面においても企業主体のキャリア形成が行われていました。
これは、長期雇用、年功序列というメンバーが大きく変わらないクローズドなコミュニティの中での雇用体系がなせることであったと言えます。

しかし近年では、中途採用者や再入社などメンバーの出入りを前提とした組織となっています。これに合わせて、人材開発のあり方もこれまでの同質性が高いものではなく、企業と個人が成長できるように変化していくことが求められています。

そのような中で、経験豊富な先輩や上司からのフィードバックやアドバイスは、職務遂行能力を形成するための貴重な情報資源となります。こうしたフィードバックを素直に受け入れて自己成長をしていける力が、これまで以上に求まれていると言えます。

なぜコーチャビリティが重要なのか?

それでは、コーチャビリティはなぜ重要なのでしょうか?
WeissとMerriganによると、従業員がコーチャブルだと以下の3つに正の影響を与えると言います。

・仕事上のパフォーマンス
・適応性
・昇進可能性

従業員側から見た場合、いずれも成長・実績・報酬の向上につながるものです。

仕事上のパフォーマンス

その重要性は明白だと思いますが、全体的な仕事上のパフォーマンスが向上します。

適応性

適応性とは、新しい環境に対して適応するために自身の行動等を変化・調整していくことを指します。

VUCAと呼ばれる変化の激しい時代において、スピード感をもって状況に適応できる人材は替えが利かない、それ自体が企業の競争優位になるとさえ言われることもあるほど重要です。

昇進可能性

昇進可能性とは、上司から見た時の対象の従業員が組織内で昇進を達成するか、あるいはすべきかどうかについての印象を指します。

昇進可能性が高いということは、次の役割にステップアップしていく準備が出来ていると見られているかということです。そのため、従業員がコーチャブルであれば、より早期に理想の配置や次世代リーダーシップの構築を実現出来る可能性が高まるという点で重要です。

コーチャブルな資質とは?

では、コーチャブルであるための資質はあるのでしょうか?
Apple創業者のスティーブ・ジョブズや、Google創業者のラリー・ペイジ等に大きな影響を与えた人物であるビル・キャンベルを主人公として書かれた「一兆ドルコーチ」では、次の4つがコーチャブルな資質であると説明されていました。

①正直さ
②謙虚さ
③諦めずに努力を厭わない姿勢
④常に学ぼうとする意欲

特に正直さと謙虚さは重視していたようで、利口ぶった傲慢な人へのコーチングは断るというエピソードも紹介されていました。
それまでは有能なコーチというと誰に対してもコーチング出来るものだというイメージがあったのですが、そうではなくコーチャブルな相手にだけ支援を提供するようにしていたというのには新鮮な驚きがありました。

挙げられている資質も前述したWeissとMerriganの定義とも近しく、なんとなくイメージも湧きやすいのではないでしょうか。

コーチャビリティを高めるには

前章で資質について紹介したため、コーチャビリティは個人が生まれ持つものであって後天的に身に付けることは出来ないものなのかと思われたかもしれません。
ですが、コーチャビリティは後天的に伸ばすことも出来ますし、環境からの影響を受けることもわかっています。ここではフィードバック受容性を高める方法と、フィードバック探索行動を高める方法について解説していきます。

フィードバック受容性を高める方法①:フィードバックをメタで理解する

フィードバック受容性を高めるためにフォスターリンクが大事だと考えていることの1つ目は、フィードバックをメタで理解するということです。

これは、そもそもフィードバックとはどういうものであって、どういう時に上手く機能しないのかというフィードバックの仕組自体を理解するということを意味します。
仕組自体を理解することで、実際に受けた個別具体的なフィードバックを一歩引いて客観的に見ることが出来る可能性が高まります。それに伴い、フィードバックと正しく向き合い・解釈し・取捨選択できる可能性も高まります。

フィードバックがどういうものであるかは、フィードバックについての記事を参照頂くとして、ここではフィードバックがなぜ上手く機能しないのかということを紹介します。
StoneとHeenの「ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業」によると、フィードバックが上手く機能しない(心がザワつかせてフィードバックそのものに集中出来なくする)のは以下の3パターンです。

 ・フィードバックが真実ではないと思う
 ・フィードバックを●●からは貰いたくない
 ・フィードバックが自身のアイデンティティを脅かす

フィードバックが真実ではないと思うというのは、要は内容に不備があると思うという事です。例えば内容が間違っていたり、評価の仕方が不公平であったり、情報が古かったり不十分だったりといったことでフィードバックを拒もうとすることです。
これはフィードバックする側と受け取る側でのフィードバックの目的の食い違いや、フィードバック内容の理解の食い違い、お互いの見えているものの違いといった理由で起こりえるものです。
構造上のどこにお互いの認識の齟齬がありそうなのかあてがつくようになるだけでも、フィードバックを上手く活用出来る可能性が高まります。認識のすり合わせを出来るようになればなお望ましいです。

フィードバックを●●からは貰いたくないというのは、フィードバックをする側と受け取る側の人間関係によってフィードバックを拒もうとすることです。
例えば、フィードバックを受け取る側がフィードバックする側のスキル・判断力・説得力・信頼性について疑いを持っている場合などは、フィードバックを拒む可能性が高くなります。また、フィードバックする側が受け取る側に対してどう考えていると思っているかによっても、フィードバックを拒む可能性が変わります。
これらの場合、フィードバックを受け取る側は会話の進路変更をしてしまいがちです。ですが、会話の進路変更は2つの話題を特定し、それぞれの話題について話をした上で、元々のフィードバックの内容を確認しなおすことで対処可能だとしています(会話の進路変更とは、元々のフィードバックの内容自体の話から、フィードバックをした側の問題点の話に会話を変更することです。)。

フィードバックが自身のアイデンティティを脅かすというのは、自分が思い描く自分の人となりやその未来と異なる内容のフィードバックを受けると、アイデンティティが揺らいでしまい、感情的にフィードバックを拒もうとすることです。
感情が揺さぶられるとフィードバックそのものを正しく認識できず、歪んだ見方をしてしまいがちです。そのため、こうしたフィードバックを受けた場合は、以下のような方法で認知の歪みを直そうとするのがよいとされています。

・自分の認知の歪ませ方の癖を(事前に)意識する
・今の感情、フィードバックを受けて自分で自分に語っているストーリー、
 実際のフィードバック内容の3つを区別する
・ストーリーの脚色を阻止する
・視点を変える(傍観者になりきる、未来から見てみる等)
・他人の見方は変えられないと自覚する

フィードバック受容性を高める方法②:フィードバックの価値を理解する

フィードバック受容性を高めるためにフォスターリンクが大事だと考えていることの2つ目は、フィードバックの価値を理解することです。

フィードバックを通じて実現された成長・価値(あるいはそれらの期待値)が大きければ、フィードバックを受け入れる可能性が高くなります。そのため、事前にその価値を明確にしたり、実現された価値を享受する成功体験を重ねてもらってそれに意識的になってもらうなど、価値を理解してもらいやすくするための取組が望まれます。

フィードバック受容性を高める方法③:フィードバックに慣れる

フィードバック受容性を高めるためにフォスターリンクが大事だと考えていることの3つ目は、フィードバックに慣れるということです。

「習うより慣れろ」という言葉がある通り、実際に経験を重ねることで慣れていく部分も大きいです。
組織にフィードバック文化を醸成することでフィードバックが行き交うのが普通になれば、フィードバック受容性は高まるでしょう。もちろん、文化醸成の過渡期や新入社員への対応についてはケアが必要となります。

フィードバック探索行動を高める方法

フィードバック探索行動を高める方法としては、フィードバックを求める人個人に着目したもの、誰にフィードバックを求めるのかに着目したもの、フィードバックを求める場面に着目したものが主に研究されています。それぞれに適合するような環境整備を行うことで、フィードバック探索行動を高められることが示唆されています。

例えば、フィードバックを求める人個人に着目した研究では、動機やフィードバックに伴うコスト(自尊心が傷つけられないか等)によって、フィードバック探索行動に変化があるとしています。
誰にフィードバックを求めるのかに着目した研究では、その対象者への信頼・人間関係・リーダシップスタイルによってフィードバック探索行動に変化があるとしています。
最後に、フィードバックを求める場面に着目した研究では、新入社員・異動・転勤・組織の変化等の環境変化がある際にフィードバック探索行動が高まるとしています。

コーチャビリティを重視している企業

コーチャビリティを大切にしている企業として有名なのが株式会社コンカーです。
コンカーは、GPTWの「働きがいのある会社」に認定されており、ランキング(中規模部門)では、2018年~2023年まで史上初となる6年連続での1位を獲得しています。

コンカーの三村真宗社長は、働きがいのある会社を実現する上での礎が、コンカー社内に定着しているフィードバック文化とし、社員の間で、フィードバックが活発に行われていることが、社員の働きがいに直結しているという手応えがあると語っています。

また、三村社長は正しいフィードバックの中の5つの概念の中の一つに、フィードバックは受ける側のスキルと心構え(=コーチャビリティ)も大切であると述べています。

日本におけるコーチャビリティの現状

フォスターリンク株式会社が2024年3月14-18日に実施した「上司からのフィードバックに関する調査」(webアンケート・有効回答数770名)によると、自発的にフィードバックを貰うために働きかけを行っている部下とそうでない部下は半々位というのが現状の様です。

また、約半数がネガティブな内容でも役に立つフィードバックであれば受け取りたいと考えているようです。

一方で、フィードバックの受け入れるのには、75%の人が何らかの課題を感じていると回答しています。

その他、役職別が高いほどコーチャビリティのスキルを高めるためのトレーニングに興味がある傾向にある等、クロス集計も含めた調査結果はこちらからダウンロード頂けますので興味のある方は是非ご覧ください。

まとめ

これまで、会社や組織での人材育成の場面においても、フィードバックが重要であることは述べられてきました。ただ、時代情勢や教育体系が変化していく中で、フィードバックを受け取る力であるコーチャビリティは今後ますます重視されていくことでしょう。
別の記事で解説したキャリア自律の観点でも、コーチャビリティを高めることは自己認識を強化し、変化する就業環境下でも柔軟かつ効果的に対応することができると言えます。

【関連記事】
 ・採用におけるコーチャブルな人材の見極め方
 ・コーチャブルと配置の関係
 ・キャリア自律とは?

フォスターリンク株式会社では、組織のニーズに沿った人材開発や研修の設計・サポートを行っています。コーチャビリティを高めるための研修や手法などについてご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

参考文献

Weiss, J. A. and Merrigan, M. (2021)”Employee Coachability: New Insights to Increase Employee Adaptability, Performance, and Promotability in Organizations” International Journal of Evidence Based Coaching and Mentoring, 2021, Vol.19(1), pp121-136.
Schmit, E., Rosenberg, J. and Eagle, A. (2019)Trillion Dollar Coach: The Leadership Playbook of Silicon Valley’s Bill Campbell. Harper Business.(櫻井祐子訳『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』ダイヤモンド社, 2019)
Stone, D. and Heen, S. (2014) Thanks for the Feedback: The Science and Art of Receiving Feedback Well. Viking. (花塚恵訳『ハーバードあなたを成長させるフィードバックの授業』東洋経済新報社, 2016).
馬場崎(宮本) 知加子(2022)「組織成員の能力伸長につながるフィードバック探索行動に関する研究」
三村真宗(2023)『みんなのフィードバック大全』光文社.