現在、ジョブ型に代わる人材マネジメントモデルとして、スキルベース組織が広がりつつあります。
スキルベース組織では、仕事を、標準化されたタスク(ジョブ)としては捉えません。
それよりも広く、テクニカルスキルやヒューマンスキル、ポテンシャルなども含めて再定義しています。
今回は、そのスキルベース組織になじむ採用方法として注目されている、スキルファースト採用について詳しく解説していきます。
スキルファースト採用とは何か?
スキルファースト採用とは、求職者の持つスキルや専門知識を最優先に評価し、それに従って採用を行う手法です。
従来の採用プロセスでは、学歴、職歴、資格などの要素が重視されてきました。一方で、スキルファースト採用は、求職者が実際にどのような技術やスキルを持っているかという点に焦点を当てます。
すなわち、求職者が実際に何ができるか、そしてどのように会社や組織に貢献できるかを重視した採用手法と言えます。
「スキル」とは何を指すか
ここでいう「スキル」とは、以下を指します。
・テクニカルスキル
・ヒューマンスキル
・ポテンシャル
テクニカルスキルとは、プログラミングスキルや会計知識など、実践と学習によって習得されるものです。
ヒューマンスキルとは、クリティカルシンキング力やリーダーシップなど、技術的なスキルとは異なり、経験や自己啓発によって磨かれるものです。
そして、ポテンシャルとはより潜在的な資質や能力を指します。
スキルファースト採用が注目されている背景
スキルファースト採用が注目されている背景には、世界的な労働力不足が挙げられます。
従来の採用手法では、形式的な学歴、職歴などの面で候補者を判断するため、相対的に候補者が不足する事態となりやすいという課題がありました。
その点、スキルファースト採用をとることにより、これまで候補者となり得なかった人材まで選択肢を広げることができます。
また、スキルには、ポテンシャルのような可変的要素も含まれます。
ビジネス環境や技術進化に伴い、企業が求めるスキルセットも急速に変化していく現在では、こうした可変的要素も含めて判断したほうが、柔軟に人員配置を行いやすいという点も挙げられます。
スキルファースト採用を行うメリット
雇用の幅や可能性を広げる
スキルファースト採用をとることで、これまで採用されていなかった労働者や職務内容での採用可能性を広げることができます。これは、求職者側にも企業側にもメリットがあると言えます。
実際に、PwCの最新の報告書「スキルを最優先に: 行動のためのフレームワーク」によれば、スキルファーストの考え方を採用することで、現在の仕事で十分な能力を発揮できていない、あるいは失業している世界中の1億人以上の人々に直接利益をもたらす可能性があることがわかっています。

Opportunities for Building Efficient and Equitable Labour Markets (January 2024)
18カ国を対象とした分析によると、労働力の活用不足は、タイでは労働人口の4%、米国では7%、フランスでは13%、ブラジルでは27%、南アフリカでは43%に及ぶと言われています。
人材の効果的な配置
スキルファースト採用では、候補者の持っているスキルセットを最優先に評価するため、採用時点で企業が業務内容や役割に沿った能力を持つ人材を見極めることができます。
そのため、必要なスキルを持つ人材を効率的に配置でき、より早い業務への貢献が期待できます。

実際に、デロイトの報告書「スキルベース組織ー新たな仕事と労働者のモデル」によると、スキルファースト採用を取り入れている組織は、そうでない組織に比べて人材を効果的に配置できる可能性が107%高いとされています。
生産性の高い人材の維持
現在、ビジネスにおいて、人間中心主義の重要性が見直されています。
これは、自分が評価され尊重されていることを感じられる環境で働きたいと考えている労働者が増えたことが起因しています。
スキルファーストのアプローチでは、それぞれの強みに応じた仕事が割り振られます。また、自己成長やスキルアップが重視されます。
こうした自分のスキルが認められ、適切に活用される環境は、社員のモチベーションを高め、更にスキルアップすることにより生産性が高い人材が維持されていくという良い連鎖を生じさせます。
実際に、上述したデロイトの報告書によれば、スキルファースト採用を取り入れている企業はハイパフォーマーを維持できる可能性が98%高いとされています。
スキルファースト採用のデメリットとは
スキル測定のコスト
スキルファースト採用では、候補者のスキルを正確に評価することが最も重要です。
ただし、スキルの評価は主観的になりやすく、面接や試験ではその人の真のスキルを十分に測れない場合もあります。そのため、適切なスキル評価ツールや試験方法を導入する必要があります。
こうしたスキルを客観的に測定するためのコストはデメリットの一つと言えるでしょう。
長期的な成長の心構え
スキルファースト採用では、即戦力となる人材に焦点が当てられがちですが、長期的な成長や適応力を持つ人材を見極めることが重要です。
長期的なキャリアパスや成長可能性を見落とさないよう心掛けていくことが必要です。
スキル依存のリスク
スキルファースト採用に長時間に依存すると、短期的なニーズに応じた採用が進んで、企業文化や価値観とのマッチングが軽視されるリスクがあります。
スキルが合っていても、長期的なチームや組織との調和が損なわれないよう注意しなければなりません。
スキルファースト採用を成功させるためのポイント
スキルファースト採用を成功させるためのポイントとしては、以下の3点が重要です。
1、スキルの明確化
2、企業文化とのフィット感の確認
3、フィードバックと改善
デメリットの部分でも説明した通り、スキルを明確化し主観に左右されない仕組みを作ることが必要となります。
評価ツールに限らず、実技テストやケーススタディなど、多様な方法でスキルを評価することで、候補者の能力を多面的に見ることことにもつながります。
また、スキルだけでなく、候補者の価値観やコミュニケーションスタイルも評価し、文化的フィットを確認していくことも重要です。
最後に、何の施策においても重要ですが、一度きりで終了するのではなく採用プロセスの後にフィードバックを受け取り、スキルファースト採用の手法を常に改善していくことも不可欠です。
まとめ
スキルファースト採用とスキルベース組織は、現代の人材戦略において重要なコンセプトです。特にスキルファースト採用は、迅速な業務適応や即戦力の確保に繋がりますが、文化的フィットや長期的な成長可能性が軽視されるリスクもあります。
明確なスキル基準の設定や多様な評価方法の導入、文化との調和を考慮することで、スキルファースト採用のメリットを最大限に引き出すことが可能となります。
参考資料
・Putting Skills First Opportunities for Building Efficient and Equitable Labour Markets (January 2024)
・「スキルベース組織ー新たな仕事と労働者のモデル」Deloitte Consulting LL