要員計画とは?
フォスターリンクでは要員計画を「企業のビジネスモデルや戦略に基づき、適正な配置を適正な予算内で実現するための継続的なプロセス」と定義しており、戦略の実行の成否ひいては企業の目標の達成に直接的に影響を与える極めて重要なプロセスだと考えています。
より正確な理解のために、以下で定義に含まれる要件について説明します。
企業のビジネスモデルや戦略に基づく
要員計画は、定められた目標を達成するための、戦略に基づくものとして策定されます。
戦略が明確になっていなければ要員計画を作成することは出来ませんし、仮に出来たとしても意味は薄いです。
要員計画は戦略と連動したものであり、独立したものではありません。
ビジネスモデルや戦略に基づいて計画した結果、どうしても計画上無理がありそうな場合は戦略や目標の方にフィードバックを行い、その見直しを促すこともあります。
適正な配置を適正な予算内で実現
要員計画は、適正な配置を適正な予算内で実現するためのものです。
適正な配置を適正な予算でというのは適時適所適スキル適数適価の配置を行うことを意味し、適時適所適スキル適数適価の配置というのは「必要なタイミングで必要なポジションに必要なスキルを持った人が必要な人数いて、かつそれが適正な人件費に収まっている」という意味で、これが戦略施策を実行するにあたり重要であることはおわかり頂けるかと思います。
特にここで強調しておきたいのは、適時というタイミングの話と適所適スキルの順番の話です。
施策の実施完了期限直前にその施策実施上重要なポジションが埋まったとしても望む結果を得られる可能性は低いですので、どのタイミングで配置を実現するのかということを検討するのは非常に重要です。
また、一般的には「適材適所」という言葉を使いますが、要員計画では先に適所(ポジション)を定義してからそのポジションに望まれる成果を得るのにふさわしい人材を充てることを考えますので、フォスターリンクでは「適所適材」という言い方の方がより正確だと考えています。さらに、対象ポジションに対して総体としての人材をマッチングするというよりは、その方の持ち合わせている対象ポジションに必要なスキル(正確にはスキルだけではなくKSAO等々業務に関係するものも含まれています)というより具体的なマッチングを行うという意味で、適材ではなく「適スキル」という言い方をしています。
配置と言うともしかしたら異動のことを思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれませんが、ここでは必ずしも異動のことだけを意味しません。
ここでいう配置とはどのポジションにどういう人がいるかという座組のことであり、その座組を作る手段としては採用・グレード変更・異動・代謝などの人材フローに関わる施策、人材開発及びそれらの組み合わせ等を含みます。
最後に、適時適所適スキル適数適価という言葉があたかも従業員を工業製品の材料のように扱おうとしているという誤解を招いてしまう可能性があると思いますが、フォスターリンクではその言葉を使うことは実際そう扱うことを必ずしも意味しないと考えています。
温かい(もしくは情け深いと従業員が感じるような)人材マネジメントをすることとその一方で戦略実行のために冷徹に理詰めで要員を考えておくことは両立しますし、むしろそうした方が危機時も含めた温かい人材マネジメントの実行可能性や持続可能性は高まるはずだと考えているからです。
継続的
要員計画は単なる計画ではなくプロセスです。
計画を立てたらそれで終わりという一工程の業務ではなく、その実行の経過モニタリングや計画修正等のPDCAサイクルを含む全行程のマネジメントプロセスです。
したがって、計画実行の過程で戦略実行の進捗や定められた目標に対してギャップが生まれそうなことが分かった場合は、当然その計画を修正するということが継続的に求められます。そういう意味では本来は単に「要員計画」と呼ぶより、「要員計画管理」と呼ぶ方が実態に即しているのかもしれません。
ここで大事なのは、ギャップを確認すべきは元の要員計画とそれに対する今の進捗状況の間だけではなく、むしろ元の戦略実行予定や定められた目標とそれに対する今の進捗状況の間ということです。
要員計画の目的は戦略を実行しそれによって定められた目標を達成することなのですが、その目的を見失って要員計画の進捗だけを追ってしまうことがよくあります。要員計画が計画通り進捗したとしても戦略の実行や目標達成が叶わないのであれば意味がないですので、戦略施策が計画通り実行されているのかや定められた目標に計画通り近づけているのかどうかを意識的に確認することが求められます。反対に、要員計画が計画通り進捗していなくても戦略の実行や目標への進捗が順調な場合は、その要因を分析・学習し、次の計画策定時に活かすようにします。
なぜ要員計画は重要なのか?
フォスターリンクでは要員計画を「企業のビジネスモデルや戦略に基づき、適正な配置を適正な予算内で実現するための継続的なプロセス」と定義しており、戦略の実行の成否ひいては企業の目標の達成に直接的に影響を与える極めて重要なプロセスだと考えています。
重要だと考える理由は主に以下の3点です。
- 整合性
- ミスマッチのリスク低減
- フィードバック
整合性
企業が高い業績を生み出す仕組をシンプルに記述すると、高い業績を生み出せる良い戦略を、その戦略実行にフォーカスした合目的的なビジネスプロセス・構造・システム・文化の設計をされた良い組織の上で、求められるスキル要件を満たすやる気に満ちた良い人材が実行する、ということになるかと思います。
要員計画は、ビジネスモデルや戦略に基づいて必要なポジションやそのスキル要件を検討することを通じて、戦略と整合性のとれた上記で言うところの良い組織を作る一助となります。
昨今話題の人的資本経営においても「経営戦略と連動した人材戦略」というキーワードが出ており、戦略と人材マネジメントの整合性が取れていることが重要であることは異論を持ちません。それを実現するための施策は多岐にわたりますが、多くの企業にとって要員計画に真面目に取り組むことこそがその良い第一歩となるのではないかとフォスターリンクでは考えています。
ミスマッチのリスク低減
要員計画は適正な配置を目指したものですので、適時適所適スキル適数適価のそれぞれに対して適正さを定めます。
要員計画の中にはギャップ分析(適正vs現実)というものがあり、これは定期的に行われます。
定めた適正さと現実のギャップに意識的になることで、スキル・人数・人件費等の過不足の発生・継続のリスクが低減されます。
戦略へのフィードバック
要員計画を策定しようとすると、その過程で戦略施策を実行する際のことをより具体的に検討することになります。
より具体的に検討をすることによって戦略検討時には想定していなかったようなことがわかることなどがあり、それを戦略の方にまたフィードバックすることで、より効果的・効率的・実行可能性の高い戦略施策を策定出来ることがあります。
例えばプラス面のフィードバックだと、当初想定よりローコストで適正配置を実現できることなどが分かった場合、浮いたコストを別の施策に厚く配分する意思決定が出来ます。
マイナス面のフィードバックですと、主に生産性や人数の観点からどうあがいても目標や戦略が実現が難しいと論理的にわかった場合、目標や戦略を見直す意思決定が出来ます。
要員計画の進め方
要員計画は以下のように進めます。
- 前提条件の確認
- 全社レベルでの量的なギャップの特定
- 部門レベルでの質的・量的なギャップの特定
- ギャップを埋める施策の策定・優先順位付け
- 計画策定
- ギャップを埋める施策の実行
- PDCAを回す
前提条件の確認
最初に、ビジネスモデル・戦略・中期経営計画等、要員計画を立てる上での前提条件となるものを確認します。
また、これまでに策定した要員計画であったり、生産性と総額人件費の推移等のデータがあればそれもあわせて確認します。
全社レベルでの量的なギャップの特定
全社レベルでの量的なギャップの特定では、会社全体で生産性と総額人件費について、目標とする将来時点における成り行きとあるべき姿の間で比較してギャップを特定します。
生産性については、売上等のアウトプットを総額人件費で除した金額ベースの生産性を基本とします。アウトプットを従業員数で除す人ベースの生産性も大事ですが、変化の激しいこの時代、アウトソーシングやテクノロジーの活用度合の変更によって従業員数の変動が大きくなる場合がありますので、時系列データとして利用する際により影響度が小さいという点で金額ベースの方を基本とするのが望ましいでしょう。アウトプットについては状況に応じて売上・粗利・付加価値額等を用います。
総額人件費をどう定義するのかについては様々な考え方がありますが、基本的な指針としては、原価や宣伝広告費は除いて、行わなければならない業務を行うために必要だと思われる項目は全て含めたものでまず分析するのが望ましいです。アウトソーシングやテクノロジーの活用も含めた全体としての生産性を見ておかないと、本当に生産性が上がったのか、純粋な人件費がアウトソーシング代に置き換わっただけなのか等を判断できないためです。
成り行きの総額人件費の計算
成り行きとは、現時点の延長線上でこのまま目標とする将来時点にたどり着いた状態を指します。
例えば成り行きの総額人件費のうち賃金・手当・賞与等の項目については、昇給率・昇格人数・採用数・退職率・等級別人数構成等の各種パラメータをもとに、将来時点の金額のシミュレーションを行います。
一方で、項目によっては単純に現在の売上高比率を適用した計算だけで済ませる項目もあります。
成り行きの生産性の計算
成り行きの生産性は、前述の成り行きの総額人件費で計画上の目標アウトプットを除して計算します。
あるべき姿の総額人件費と生産性
あるべき姿の総額人件費と生産性は、それぞれ現実的な制約から範囲の絞り込みを行います。
理論的には以下のグラフの赤線部分が取りうる総額人件費と生産性の候補となります。
図を挿入
縦軸は生産性、横軸は総額人件費、点(現在)は現在の生産性と総額人件費のプロット、点(成り行き)は成り行きの生産性と総額人件費のプロット、直線は目標とするアウトプット値を実現する際の生産性と総額人件費の組み合わせ候補を表します。
総額人件費の現実的な制約は、計画上の利益目標からの逆算や労働分配率を利用して検討を行います。
生産性の現実的な制約は、現在の0.9-1.2倍の範囲が目安となるでしょう。生産性を大きく下げる計画は受け入れられにくいものですし、1.2倍以上の生産性向上はビジネスモデルの変更等大掛かりな変化が求められる場合が多いためです(ただし、近年のテクノロジーの進化によって従前より大きな生産性の伸びを達成出来る可能性が高まってきているので、よりストレッチングな生産性向上を目指した方が良い場合も多いかもしれません。)。
部門レベルでの質的・量的なギャップの特定
全社レベルの量的なギャップの特定によって概要を掴んだ後は、より具体的に検討を行うために部門レベルで質的・量的両面のギャップを特定していきます。
部門レベルでの量的なギャップの特定
部門レベルでの量的なギャップの特定では「全社レベルでの量的ギャップの特定」で紹介した内容を部門レベルで行うのとあわせて、以下の分析も行います。
図を挿入
縦軸は生産性、横軸はFTE(フルタイム換算した時の従業員数)、点(現在)は現在の生産性とFTEのプロット、点(成り行き)は成り行きの生産性とFTEのプロット、直線は目標とするアウトプット値を実現する際の生産性とFTEの組み合わせ候補、点線は対象部門に割り当てられた総額人件費に達する際の生産性とFTEの組み合わせ候補を表します。
ここでの目標とするアウトプット値は目標内部人件費と呼ぶことにします(総額人件費 = 外部費用 + 内部人件費)。
部門長は仮想的に割り当てられた部門の総額人件費の中で、行わなければならない業務を行うためにどうすればよいのかの手段を検討し、それぞれの手段に予算を振り分けます。
例えばこの時、アウトソーシング等を全く用いず全て内部で処理するのであれば総額人件費=内部人件費となり、グラフ上では直線が上部の点線と一致することになります。反対にアウトソーシング等組織外部の活用を進めるのであれば、直線が下方に平行移動することになります。
このあたりの業務の設計と座組の考え方については別途まとめましたので▶こちらの記事をご参照下さい。
部門レベルでの質的なギャップの特定
これまでの量的な分析においては生産性・総額人件費・従業員数などを確認してきました。
質的なギャップの特定では、従業員のスキルについて確認します。
従業員のスキルは、職能要件書・職務記述書・役割定義書等等の名で呼ばれる求められる人材要件や仕事の内容等をポジション別にまとめた資料に含まれるスキルを洗い出して利用します(▶職能要件書・職務記述書・役割定義書等についてはこちらの記事をご参照下さい)。
そして、それぞれのスキルについてどの時点でどの程度の投入量なのかを、あるべき姿と現実で比較します。投入量はスキルレベルの尺度(例えば10段階なら10段階)にそのスキルを持っている従業員数のFTE換算数を乗じて計算します。
例えば、中期経営計画達成のためにスキルAについて3年後時点でレベル7の実力を持った従業員が3人必要だと思ったら、3年後に必要な投入量は70と計算されます(7 x 3 = 21)。
これに対して、現時点での部内でスキルAを持っている人の内訳が以下だった場合、投入量は11と計算され(7 x 1 + 5 x 4/5 = 11)るので、投入量は10(21 – 11 = 10)足りないといった特定の仕方を行います。
・甲さん レベル7 フルタイム勤務
・乙さん レベル5 週4勤務
簡便のためこうした計算の仕方をしますが、ある閾値を超えるスキルレベルを超えていないと全く進まない業務もありますので、レベル7が3人で21の投入量で業務が上手く回っているのか、同じ21の投入量でもレベル3が7人で業務が回らなさそうなのかということは意識しておく必要があります。
上記の作業を全ての部門において、その部門で求められる全てのスキルを対象に実施することで、部門別での質的なギャップの特定が完了します。
ギャップを埋める施策の策定・優先順位付け
部門ごとに、生産性・総額人件費・スキルのギャップを埋める施策を策定します。
施策は幅広に洗い出しておき、あとで最初の施策がうまく行かなかった時に次の手を打ちやすい状態にしておきます。
施策が出揃ったら優先順位付けを行い、それぞれの施策の実施によって全社レベルでの量的なギャップが解消されることを確認します(スキルギャップの解消のための施策としての教育研修費についての予算確保を行った上で中期経営計画が達成されることを確認します。)。
計画策定
これまで行った分析について、現在と目標とする将来時点だけでなく、その過程の各年度(もしくは半期・四半期)ごとの状態も定義した計画を策定します。
ギャップを埋める施策の実行
優先順位付けを行った結果計画に盛り込まれた施策を実行していきます。
PDCAを回す
各年度(もしくは半期・四半期)ごとに計画と実際の進捗のギャップを特定し、必要に応じて追加の施策を実行します。
また、要員計画上の計画と進捗のギャップだけでなく、元の戦略実行予定や定められた目標とそれに対する実際の進捗状況のギャップについても同様に確認・対応します。要員計画がうまく行ってたとしても、元の戦略実行予定がうまく行っていなかったら意味がないためです。反対に、要員計画が計画通り進捗していなくても戦略の実行や目標への進捗が順調な場合は、その要因を分析・学習し、次の計画策定時に活かすようにします。
要員計画と合わせて見直したい事項
要員計画と合わせて見直すことが多い事項には以下があります。
それぞれリンク先の記事をご参照下さい。
まとめ
- 要員計画とは、「企業のビジネスモデルや戦略に基づき、適正な配置を適正な予算内で実現するための継続的なプロセス」である。
- 要員計画は以下の理由で重要である。
・整合性
・ミスマッチのリスク低減
・フィードバック - 要員計画は以下のように進める。
1.前提条件の確認
2.全社レベルでの量的なギャップの特定
3.部門レベルでの質的・量的なギャップの特定
4.ギャップを埋める施策の策定・優先順位付け
5.計画策定
6.ギャップを埋める施策の実行
7.PDCAを回す
参考文献
Sparkman, R. (2018)Strategic Workforce Planning: Developing Optimized Talent Strategies for Future Growth. Kogan Page Limited.
窪田千貫(2004)『要員計画の立て方と総額人件費管理』中央経済社.
デロイト トーマツ コンサルティング株式会社(2013)『要員・人件費の戦略的マネジメント 7つのストーリーから読み解く』労務行政.